一点集中、この一手に全てを賭けて放った。真っ直ぐ飛んでいくダーツは吸い込まれるように的のど真ん中へと突き刺さった。この瞬間に勝敗は決した。

「かっ…たーーー!!!」

勝利の歓声が遊技室に響く。奇跡が起きた。というか、起こした。逆巻兄弟(三つ子除く)とダーツ勝負をして勝った。この日のために特訓をしたとはいえ、勝てる自信がなかったので嬉しい。万歳する私の隣でスバルが悔しそうにしている。レイジさんは溜息を吐き、シュウさんは平時と変わらない。

「名前に負けるなんてありえねぇ!!」

「スバル、あなたダーツは得意ではなかったのですか?」

「うるせぇ!!お前だって負けてんだろ!!」

「お前らこいつに負けるなんて弱すぎだろう」

「「お前もだよ!!(です!!)」」

内輪揉め(?)しているが負けは負け。ダーツをする際に持ちかけた勝った人の言うことを一つきくという約束を果たしてもらわなきゃ。

「約束は約束だからね。ふふっ」

「おい。何を企んでるんだお前」

「今月はハロウィンがあるから三人には仮装してもらいます」

「ハロウィン?仮装??」

「人間界の行事だったな」

「人間のお遊びに付き合わされるということですか」

「そいうことです。この中から選んでください」

作るのは無理なのでネットで通販しようと思っている。どんな衣装にするかはもう決めてある。誰がどの仮装をするかは本人たちに選んでもらおうと思い、プリントしたものを見せる。紙を覗き込んだ三人は絶句した。

「何だこりゃ」

「赤ずきん。皆には赤ずきん関連の仮装をしてもらおうかと思って。ちなみに赤ずきんは私がするからそれ以外ね」

「お遊戯会か…」

「いいじゃないですか。どれも可愛いでしょう?」

数多ある中から厳選したのだ。お婆さんは薄いピンクのネグリジェに揃いのナイトキャップ、オプションに丸メガネつき。驚くことに、お婆さんの衣装は男性用も売っている。狼は狼の耳、つまりは獣耳としっぽと首輪がセットになっている。狼なのになんで首輪?一番普通なのは猟師の衣装でベレー帽にベスト、シャツとパンツにブーツでレプリカの猟銃もある。

「仮装というよりコスプレですね」

「こんなもんっ!!やってられるか!!」

「あ」

怒ったスバルが紙を引っ手繰り、クシャクシャにしてしまった。丸めたそれを放り投げるとそのまま部屋を出ようとしている。こうなることは予想がついていた。だからといって逃がしはしないけど。

「スバルは逃げるんだ」

「あぁ!?」

「勝負に負けた上に約束破るなんて格好悪い。シュウさんやレイジさんはちゃんと守ってるのに一人だけ逃げるの?へー…まぁ、スバルがどうしても嫌だって言うなら止めないけどね〜」

「こん…のっ!!!」

バコッ!!と、スバルが壁を殴りつけて穴を空けた。スバル!!と、レイジさんの鋭い声が飛ぶ。いつものことなので気せずに足元に転がる紙を拾って広げた。椅子に深く腰掛け、今にも寝てしまいそうなシュウさんに差し出す。

「シュウさんはどれがいいですか?」

「俺はどれでも…よくないな。着るとしても婆さん以外だ。レイジ、お前はお婆さんの仮装がいいんじゃないか。きっと似合うぞ。なぁスバル」

「あ?………あーそうだな。元々メガネなんだからちょうどいいじゃねぇか」

「貴方達!!このような時に結託するとは!!」

よっぽどお婆さんの仮装が嫌なのか、シュウさんとスバルがレイジさんに押し付け始めた。レイジさんはレイジさんで断固拒否している。猟師はともかく、獣耳としっぽと首輪は許容範囲なのだろうか。

「もう!!めんどくさいのであみだで決めます!!」

話し合いで解決するわけないので強硬手段に出る。即席であみだくじを作り選ばせた結果…。

「ぶははっ!!レイジ、てめぇ結局婆さんじゃねぇか!!」

「よかったなレイジ」

「お前達はっ!!」

スバルは床を転げまわりそうな勢いで爆笑し、シュウさんはほくそ笑む。レイジさんはビリヤード台に手をつきわなわなと震えている。レイジさんがお婆さん、シュウさんが狼でスバルが猟師になった。レイジさんには申し訳ないが諦めてもらおう。やっと決まった、これで注文出来る。何とかまとまって一安心しているとシュウさんが徐に口を開いた。

「なぁ、赤ずきんって狼に食べられるんだよな」

「そうですど…それが何か?」

「じゃ、狼役の俺は赤ずきんであるあんたを食べてもいいってことだな」

「はい?」

シュウさんがわけのわからないことを言い出した。強引に腕を引かれてシュウさんの足に跨る。一気に縮まった距離に心臓が飛び跳ねた。

「赤ずきんは丸飲みされちまうんだよな?そんな一瞬で終わるんなんてつまらない。じわじわ弱らせてから食ったほうが楽しいに決まってる」

「そこまでやらなくてもいいですから!!てか、ハロウィンはそういう行事じゃないので!!」

「あんたのお遊びに付き合ってやるんだからこれぐらいいいだろう?骨の髄までしゃぶり尽くしてやるから安心しろ」

何を安心していいのかわからない。楽しげに笑うシュウさんに引き攣った笑みを返す。それとなく退こうとするけど腰に巻きついた腕が力が強くて離れられない。困っていると身体が宙に浮き、気づいたらスバルに抱擁されていた。

「狼なんてやられ役じゃねぇか。褒美を与えられるのは赤ずきんを助けた猟師だろう」

褒美って何。ぎゅっ、とスバルに抱きしめられて瞠目していると肩を掴まれ、そのまま引っ張られて目の前にレイジさんの背中があった。

「貴方達のような獣より身内のほうが赤ずきんも安心するでしょう。そうですよね?赤ずきん」

同意を促されて困る。まるで他の二人から庇うようにレイジさんは立ち塞がる。3人は本人そっちのけでわーわー言い合っている。

「埒があかねぇ!!名前お前が決めろ!!」

「な、何を?」

「誰に食べられたいかだよ」

「食べられるんですか!?」

「穀潰しの言葉に耳を傾けることはありません。いいですか、貴方はハロウィンを誰と過ごしたいか考えればいいのです」

「誰か選ばなきゃいけないんですか…?」

「「「当然」」」

そんな急に言われても困る、と言えばハロウィンまでに決めておけと返される。選択肢は三つあるがどれを選んでも悲惨なことになるのは確実だ。私は仮装してハロウィンを楽しみたかっただけなのに…。いっそのこと、

「仮装するのやめようかな」

ぼそっと呟けば一斉に睨まれたので大人しく口を噤んだ。拒否権は存在しない様だ。ハロウィンまではまだまだ日がある。その間、誰を選べばいいか頭を悩ませることになるのだろう。



















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大分遅くなりましたが、ハッピーハロウィン!!鶫様から頂いたネタで書かせていただきました。赤ずきんの仮装で、狼と猟師の取り合いということでしたが…取り合いというよりはお婆さんの仮装の押し付け合いになりました。

レイジさんはお婆さんで決まっていたのですが、スバル君とシュウさんで悩みました。スバル君が狼、シュウさんが猟師の仮装の方がしっくりきそうですがここはあえてシュウさんが狼でいってみました。正直、スバル君に猟師の仮装は似合わなそうだ(笑)

鶫様、ネタ提供ありがとうございました!!



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