※if スバルと結婚したら 〜新婚生活編〜





何か聞こえたような気がして目が覚めた。どれくらい寝たんだろうか。棺桶の中は真っ暗で、朝なのか夜なのか判断がつかない。蓋を持ち上げると光が溢れた。

「ちっ。まだ昼前じゃねぇか」

身体を起こして室内を確認する。日光の入り具合からして午前中ってとこか。窓のほうを見るとカーテンがふわふわと揺れてて目障りだ。窓が開いてるようだが、俺は開けた記憶はない。多分、あいつが掃除した時にでも開けてそのままにしたんだろう。余計なことしやがって。

「あ?」

閉めようと棺桶から出て窓辺に寄る。その際に見えた外の風景に、いつもなら存在しないはずの物があった。

木の間に吊るされたロープにシーツやバスタオルが干されている。風に吹かれて泳ぐ真っ白な洗濯物は青い空によく映える。今日は天気がいいからすぐに乾くだろう。どうやら洗濯しているようだが、肝心のあいつの姿がない。代わりにどこからか歌が聞こえてくる。薄ぼんやりと記憶にあるそれは目覚めるきっかけになった音だ。ということは、歌っているのは…

「名前、か?」

思い当たる人物の名を呼ぶとタイミング良く名前が干されたシーツの間から出てきた。きょろきょろ、と周りを見渡す。名前がこちらを見上げて目が合った。俺がいるとは思ってなかったらしく何度か瞬きを繰り返す。

「スバル?起きたのか」

「まーな。随分と精が出てるな」

「天気がいいから今のうちに干しておこうと思って」

「天気がいいからって…お前、だんだん所帯染みてきたぞ」

「仕方ないだろう。私がしなきゃ他に誰がやるんだ」

それとも当番制にするか?と、訊かれたので却下しといた。新婚だからとわけのわからない理由で買い与えられた家には俺と名前しかいない。当初は使用人もつける予定だったが、俺が断固拒否した。使用人だろうが他人が家にいるなんてうざってぇからだ。二人っきりで住んでいるので家事は名前が引き受けている。

「俺がやるわけねぇだろう」

「だよね。別にいいけど。家にいてもやることないから」

「そうかよ…なぁ、さっきの歌、あれなんだよ」

「歌?ああ、確か子守唄だったかな。あまり覚えてないけど、幼い頃に母様かもしくは乳母が聞かせてくれたんだろうね。自然と覚えたんだよ」

懐かしむように昔語りする名前に木もれ日が降り注ぐ。吸血鬼のくせして太陽の下にいることに違和感を感じさせない。なんつーか、こいつは屋敷を離れて暮らすようになってから生き生きしている気がする。ニコニコしていた名前が不意に真顔になった。

「もしかしてうるさかったか?」

「別に。たまたま目が覚めただけだ」

「ならいいんだけど。眠れないなら何か温かい飲み物でも淹れるか?」

飲み物だぁ?別に寝付けねぇわけではないんだ、んなもんいるか。

「…紅茶だったら飲んでやる」

そう思ったはずなのに何故か内心とは真逆の返事をしていた。名前は柔らかく笑う。

「これ終わったら淹れるから少し待ってて」

足元にある籠を抱えると名前は洗い物の海の中へ入っていた。シーツとタオルに埋もれて見えなくなる。

なんだろう、この感覚。平和っつーか穏やかすぎて慣れない。だが、この生活も悪くはない。名前は必要以上に干渉せず、適度な距離を保つから兄弟達と暮らすよりは断然マシだ。一応、新婚生活だがお互いその気がないのでただの同居になっている。元々、形だけの夫婦なんだから問題ない。始まりこそ最悪だったが今は現状に満足している。

ふと、風に乗って歌声が流れてくる。名前はあの歌が余程気に入ってるらしい。ゆったりとしたテンポはまさに子守唄で、赤ん坊が母親の腕に抱かれて眠るにはうってつけだろう。俺はシュウじゃねぇから音楽の良し悪しはわからねぇが、名前が紡ぐ音は耳に馴染んで心地良い。椅子を持ってきて座り、窓枠に頬杖をついて目を瞑った。このまま寝られそうだが、あいつが紅茶を淹れるというのだから、それを飲むまでは起きといてやろう。





波間の子守唄
(穏やかに日々が過ぎていく)








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「夜啼く鳥は夢を見た」の鶫様へ捧げます。拍手お礼文の結婚したスバル君と叔母さん設定ということで、新婚生活に慣れ始めた頃の二人を書いてみました。スバル君はスバル君でこの生活を気に入ってますし、叔母さんは三つ子や義兄から解放されて伸び伸び(笑)しております。ただの同居になっておりますが、ここから本物の夫婦になっていく…のだと思われます←

鶫様、相互していただきありがとうございましたす!!リクと違うものになってしまい申し訳ないのですが、お受け取りください。これからもよろしくお願いします。

ここまでお読みいただいた皆様もありがとうございました!











〜数年後〜

「スバル、あれどこに片づけた?」

「いつもの場所にあんだろう」

「ないから聞いてんの。最後に使ったのスバルだろう」

「だから、いつものとこに片したって………あ。そういえばあっちに仕舞ったわ」

「やっぱり。ちゃんと元あった場所に戻してよ」

「んだよ。ギャーギャーうるせぇなぁ」

「スバルが悪い」

「わかったわかった。俺が悪かったよ………それより名前」

「ほら。ここにある」

「サンキュ」





「貴方たちは会話をする気があるのですか?」

「「は?」」

「さっきから聞いていればあれだのそれだの何のことを指しているか私にはさっぱりわかりません。最終的には名前を呼んだだけで理解するとは。というか、何故今ので通じるのです?」

「何か変だったか?」

「別におかしくないだろう」

「自覚がないのですか!!」

「お前ら熟年夫婦みたいだな」

「「はぁ!?」」



こんな風になったりして(笑)



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