すれ違った人が綺麗だったから目で追った。美人だな、と思っただけでそれ以上は何の感情もわかなかった。だから未練もなくあっさりと視線を外す。ふと、隣にいる彼女を見て吃驚した。さっきまでショッピングを楽しんでいた名前が眉をきゅーと寄せて口をへの字に曲げていた。
「綺麗な人だった」
「はぁ?」
「左之デレデレしてた」
さらにひん曲がっていく唇と潤み出した瞳に、いつものあれだな、と気づく。
名前は嫉妬深い。ちょっとしたことにでもすぐに妬いてしまう。名前いわく、俺はモテるから気が気でないらしい。それに自分はあまり可愛くないから、尚更不安になる…そうだ。
「デレデレなんてしてねぇよ」
「してたもん」
「あ、こら名前。1人で先に行くな」
背ぇちっこいから人波に揉まれちまう。名前を追いかけ強引に手を繋ぐ。怒ってるくせに嫌がるどころかぎゅっ、と握り返してくるのが可愛いらしい。
「ちょっと見てただけだって。お前だって格好いいやつがいたら見ちまうだろ?」
「左之以上に格好いい人なんていないよ」
言い切る名前に言葉を失った。今のは、殺し文句だぞ。今すぐちんまい身体を抱き締めたいけど、そんなことしたら怒らせてしまうのでぐっと堪える。家に帰ったら思う存分抱き締めよう。
「私より容姿のいい人なんて沢山いるよ」
「そりゃ名前より綺麗な人も可愛い人もごまんといるだろうな」
「っ…」
名前は立ち止まると俯いた。泣きそうになってるのがばっちり見えた。まったく、このお姫様は本当に手がかかる。けど、絶対嫌いになんてなれないんだ。
そっと周りを確認する。誰も俺達など気にも止めていないから大丈夫だろう。でかい図体を生かして名前を隠すと、旋毛にキスしてやった。ばっ、と顔を上げた名前は口をぱくぱくさせている。頬っぺたが真っ赤だ。
「な、な、な、何してんの左之!!」
「最後までちゃんと聞けって。俺は他のやつらなんてどうでもいいんだ」
「へっ?」
「俺にとっては名前が世界一可愛いんだぜ。誰もお前には敵わないよ」
「でも、私性格だってよくないし…」
「そんなこと誰が言ったんだ。人間だから悪い部分だってあるけど、いいとこはないわけないだろう」
俺はちゃんと知ってる。名前は頑張り屋さんだってことを。俺のために可愛くなろうと影で努力してるんだよな。本当はそのままでも充分可愛いんだけど、名前が頑張ってくれてるのかすげぇ嬉しくて何も言わずにいる。それに俺は嫉妬深いところも泣き虫なところも、何もかもが愛しいんだ。そういうの含めて愛してるんだから、俺の愛は本物だろう?
「名前が不安になるなら何度だって言ってやる」
俺は、駄目なとこも良いとこも全部引っくるめて名前が好きだよ。
「本当に…?」
「本当だよ」
「………そっか。嬉しい…あのね、左之、」
ありがとう、とはにかむ君がこんなにも愛しい。
君じゃなきゃもう、だめなんだ
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ある曲を聴きながら書きました。だめなところもひっくるめて愛しているんだ、という胸がキュンとする曲です。
お題、誰そ彼様より
「君じゃなきゃもう、だめなんだ」使用