※(ちょっと無理がある)設定&捏造になっております。





白バラの前に誰かが立っている。見たことがあるような横顔に目が離せなかった。その人は近づいて来て、お前が…と呟いた。髪は黒いが俺を見据える瞳は赤いから、話しに聞いていたあの人だとすぐにわかった。その人を呼ぼうとしたが、思い直して口を閉じた。それは許される行為ではなかった。

それ以降、会話を交わすことはほとんどなかった。時々、遠くからその姿を見つめる程度だった。






俺には姉がいる。他の兄弟は異母兄弟だが、あいつと俺は異父姉弟だ。なので俺だけの姉になる。だがあいつは俺を弟と思っていない。

お袋は親父ではない違う男と結婚していた。その男との間に生まれたのがあいつで、俺の親父はお袋欲しさにあいつの父親を殺して無理矢理妻にした。あいつ自身も殺されそうになったがお袋の嘆願により命は救われた。そのお袋も親父に陵辱されて精神が崩壊し、自分の娘すらわからなくなった。

父親も母親も奪った親父は勿論、その親父の血を引いている俺も恨まれるのは当然だ。仕方がないと思っている。だから何を言われようとも何をされようとも全て受け入れようと決めていた。それしか償う方法はない。










床に転がる無様な俺をあいつは冷たい目で見下ろしている。俺をこんな風にしたのは目の前のやつだ。飲み物に一服盛られた。動ごけなくなるぐらいの強力なやつだ。あいつは片膝つくと俺の胸ポケットから銀のナイフを取り出した。

「心配するな。事が終わったらこれは返す」

それは俺を殺したら、って意味だろう。ついにこの時がきたか、と冷静な自分がいる。薬なんか盛らなくても抵抗なんてしねぇのに。無駄なことをしている。

内心で皮肉りながら俺はその時を待った。だが、あいつはナイフを使わなかった。代わりに空いてる手で俺の前髪に触れると左右に動かし始める。息をのむ。誰かに頭を撫でられるなど初めてだ。

「どうせお前は信じないだろうから、聞き流してくれても構わない。独り言とでも思えばいい。ただ、これは嘘偽りのない本心だ」

怒りと蔑むような目で見られのが怖くて目を合わせたことはない。けど、今は何か違っていて思わず視線を重ねていた。俺やお袋と同じ赤い瞳は憎しみ以外の色を湛えている。

「お前を憎んでいないといえば嘘になる。お前は殺しても殺し足りないあの男の息子なのだから。でも、お前は母さんの子で、私の家族で、たった1人の弟だ。そう思うと憎みきれなかった………お前が愛しかったんだよ」

憎い、だけどそれだけじゃない。愛しさが込み上げてくる。いろんな想いがぐちゃぐちゃになって苦しかった。

「…何故生まれてきた。お前さえいなければ母さんはっ!!穢れた存在は死んでしまえ!!どうして!!どうして、私は弟を真っ直ぐ愛してあげられないんだっ」

まるでダムが決壊するように、溜め込んでいたもの全てが吐き出された。顔を歪めながら叫ぶ様は悲痛である。例え身体が動いて声を出せたとしても、俺は呆然とするしかなかっただろう。憎いけど愛してる、矛盾した想いを抱えてそのせいで余計に辛い目に遭って…俺という存在はどこまでもこいつを苦しめるのか。

俺は、あんたになら殺されたって構わなかった。俺を殺すことであんたが少しでも楽になれるのなら、罪を償えるのなら、それでよかったのに。

「次に目が覚めたら何もかも終わってる。それまで眠りなさい」

感情の波が引いて平素のあいつに戻る。掌で目を隠された。何故か急に眠くなって意識が遠退いていく。ふざけんな。自分だけ言いたいこと言って満足してんじゃねぇよ。俺を弟だと思っていたというなら、俺だってそうだ。本当はずっと普通の姉弟みたいに姉貴って、姉さんって呼んでみたかった。










次に目が覚めた時、ユイが泣きじゃくっていた。あいつがお袋を殺してあの男と刺し違えて死んだって、嗚咽混じりの声で言われた。当主の死に一族は騒然としているらしいがどうでもよかった。あいつの使い魔が届けたナイフを渡される。表面を撫でると乾いた血がパラパラと剥がれ落ちた。私を殺して、あの男を殺して、と与えられたナイフは俺ではない違うやつの手によって役目を終えた。それはきっと姉の俺への憎悪と愛情なのだろう。



(お前は母親を救うことが出来なかった。そのことを悔やみ、己の存在を呪いながら未来永劫生きていけ)

(母親殺しの咎など背負わなくていい。もう充分苦しんだんだから、これからは穏やかに生きてくれ)






愛される資格なんてなかったのに



姉貴、姉貴…姉さん










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逆巻家のお姉さんじゃなくてスバル君のお姉さんが書きたかったんです。そうしたらとんだシリアスになりました。なんか展開が急すぎる&端折りすぎた感がしますね…でも、これ以上詰め込むと長くなる。むむむっ。



お題、告別様より
「愛憎の羅列」使用



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