はらりはらり
儚く散っていくその命
何のために咲かせたのか
「この桜木は立派だな」
隣に並んで一緒に桜を見上げている土方さんは、ばっさりと髪を切り落として洋服を身に纏っている。その姿に違和感はない。むしろよく馴染んでいる。
「そうですね」
今が咲き盛りである桜は圧巻という言葉が当て嵌まった。年を重ねすでに巨木と化しているから、ちょっとやそっとのことで倒れたりはしないだろう。
「この桜はこれから先、様々なものを見てくだろう」
「様々なものですか」
「人の賢さも愚かさもこの地から全て見届けるんだ」
土方さんが手を差し出すと一枚の花びらがフワリと着地した。静かに指を折って掌の中に閉じ込めた。
「俺の命は新選組のためにある。それは今でも変わらないし、最期までそうじゃなきゃなんねぇ」
ほとんど独り言のようだったから黙って聞いていた。作った拳を額に付けて目を瞑る姿は、まるで祈りでも捧げているかのようだ。力を緩め掌を解くと花弁は宙に舞って流される。
「名前」
「はい」
「今の俺がお前にやれる物は何もねぇ。だから代わりに…」
来世の俺の人生はお前にくれてやる。
「………―――どういう意味です?」
「そのまんまの意味だ。これほど見事な桜のことならきっと忘れないさ。だから…生まれ変わったらこの桜の下で会おう」
それは約束ともいえない不確かすぎるものだ。来世で会える保証なんてどこにある。この桜木だってあり続けるかわからないというのに。大体、廻り逢えたとしてもお互いがお互いのことを覚えていなければ意味がない。けれども、これが彼なりの精一杯の譲歩であり、優しさであることをわかっている。何よりも土方さんの言葉を信じたがっている自分がいた。
「来世なんて信じるんですか?土方さんは現実主義者だと思ってたのですが」
「ほっとけ」
花が舞う中、淡く微笑んだその人は目を離したら桜の中に紛れて消えてしまいそうで、ふいに涙が零れそうになって狂おしい愛おしさを隠すように静かに笑って頷い た
さくらびと
(交わした約束が、)(果たされる日がきますように)
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お題、選択式御題様より
「ふいに涙が零れそうになって狂おしい愛しさを隠すように静かに笑って頷い た」使用