そんな夢中になってまでやるような仕事か、と半ば呆れつつもその真面目っぷりに感心していた。そういえば彼女も風紀委員に属してたっけ?後輩である斎藤のお固い性格に磨きがかかったのは風紀委員会のせいかもしれない。

「あと少し…」

いや、まったく足りてないから。

指先から爪先まで最大限に身体を伸ばしている。どんなに頑張っても届かないものは届かない。それでも黒板の上のほうにある文字を消そうと頑張る姿は健気だ…彼女には椅子を持ってくるとかそういった発想がないのだろうか。

「(普通気付くだろ…)」

忘れ物を取りにきた原田に気付かないほど一生懸命になっている。いくら教室の後ろから、しかもドアが開いていたので物音一つ立てずに入室出来たからとはいえ、普通は何らかの気配を感じるものではないだろうか。

「なんで届かない…!!」

身長が足りないから、とツッコミを入れてたほうがいいのか。何時もの原田ならすぐに助けるのだが、今回は勝手が違う。なんせ相手に嫌われているのだから。

「(俺が何したってんだよ)」

ただのクラスメートという関係上あまり関わることはないが、数度だけ交わした会話の中で判明した。目線は合わせずに早々に話しを打ち切ろうとする…避けられているのは明白であり、そんな態度が原田にとっては面白くない。

さて、どうしたものか。ここはそっと忘れ物を取って静かに去るのが波風立てない一番いい方法なのかもしれないが、明らかに困っているのに知らぬふりするのも気が引けた。

「(しゃぁねぇな)」

今以上に嫌われるのを覚悟で名前に近づく。足音を消しているため至近距離になっても気付かず、ついに彼女の背後に立った。急に影が出来たのを不思議に思って名前が振り向くのと原田が黒板消しを取り上げるのは同時だった。

「は…原田君!?」

「よう、苗字。お前一人か?男子の日直当番はどうした?」

「さ、先に帰っちゃったみたい…」

「何やってんだあいつ…俺が明日言っといてやるよ」

「あ、ありがとう…」

「それから届かないみたいだから代わりに消すな」

「うん」

相変わらずの挙動不信に苦笑しながらも、腕を何度かスライドさせればたちまち黒板は綺麗になった。用を終えた黒板消しを置いて固まってる名前に声をかけようとして、やめる。こんな至近距離で彼女の見るのは初めてだ。

「………」

「原田君?」

「苗字ってさぁ、俺のこと嫌い?」

少しぐらいの意地悪も許されるだろう。黒板に両手をつき退路を断って低めの声を出せば名前は原田に背中を向けたまま固まった。

「はぇ!?何言ってんの!?」

「あのな、避けられてたら嫌われてるとしか思えないだろう」

「勘違いだよ!!」

「そうは思えねぇよ」

「嫌って、なんて、ないのに…」

「根拠がねぇな」

じわじわと追い詰める。草食動物を狙う肉食動物はこんな気持ちなんだろうか、と変なことを考えた。勿論、原田は名前を食べるつもりなど毛頭ない。流石に可哀相になってきたので離れようとしたが髪の隙間から覗く耳に目が止まった。真っ赤である。多分、顔も同じだろう。

「(待てよ。真っ赤ってどういうことだ?)」

まじまじと見る。耳は赤いのに首筋は白い。色の対比に思わず釘付けになる。

「ひゃぁ!!!」

無防備な首筋に左から右にかけて触れるか触れないかの絶妙なタッチで指を滑らせた。名前の悲鳴に、いい声。なんて思ったことを知られたら殴れるかも。

「何するの!?」

「ほーら。さっさと吐いちまいな楽になれるぜ」

「私は取り調べされてる容疑者か!!」

「意外とノリいいな」

「だ、だから!!」

「ん?」

観念したのか、話しだしたのはいいがボソボソとしてて聞き取りにくいので耳を寄せたら身体が密着する。

「ちょ、くっつきすぎ!!」

「苗字の声が小さいから聞こえないんだよ。離してほしいなら早く言っちまえよ」

「うっ、あ………は、原田君かっこいいから直視出来ないし話すと緊張するの」

それが精一杯だったらしく俯いた名前に虚を突かれる原田。

これはなんですか。期待しちゃってもいい感じでしょうか?

あまり信じてもいない神に問うてみるがやはりというか、答えはない。ならば好きに解釈してもいいだろう

「(ていうか、期待ってなんだよ。俺は苗字のことが好きなのか?)」

「もういいよね?」

「(…まぁ、いいか)ダメだな」

「えぇ!?」

「そんな理由で避けられちゃたまんねーよ」

半強制的に正面に向き合わせると名前の首に手を回し、緩く組んだ。たいして力は込められてはいないがけして逃げられない。絶妙な加減である。

「なー苗字。訓練しようか」

「訓練!?」

「そっ。少しずつでいいから俺に慣れていこう。な?」

「そんなの無理無理無理!!!」

「嫌いじゃないんだろ?俺も名前とお近づきになりたいし。だから、」

よろしくな、と耳元で囁けば膝が折れた。腰が抜けたらしい名前を支えながら原田は未来に期待を膨らませるのであった。





over the horizon
(どう発展するかは君次第)










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原田が暴走しよった…!!!(爆)格好良くかくつもりだったのに何でこうなった。これでは只の変質者ではないか(酷)どうやったらエロス溢れる格好いい原田さん書けるんでしょうね。



お題サイト 群青三メートル手前様 外語二十五題より
「over the horizon(兆しが見えて、起こりかかって)」使用



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