近すぎたから、見えなかった。遠く離れて初めて気付くことだってあるんだ。





日差しが照るが夏の焼け付くようなものではなく、包みこむような優しいものだった。久しぶりの日本は空気の澄んだ秋晴れで暑くもなければ寒くもない。長袖のシャツ一枚でも充分なぐらい過ごしやすい。都会だというのに空が綺麗に見えた。

「懐かしいな」

一人呟いて空の青さに目を細めた。帰ってきたら真っ先にに行こうと決めていた場所がある。だから迎えに来るはずの小十郎に内緒で1便早めた。あいつと一緒だと有無言わさずに実家へ直行だ。それだけは避けたい。あとで待ちぼうけをくらった小十郎から説教されるだろうが、それぐらは我慢してやる。

「Hey!!Taxi!!」

タクシーを止めて乗り込み目的地を告げる。旅行からお帰りで?と、質問してきた運転手に留学していた、と答えてあとは外の景色に集中する。車は空港を出ると中心部へ向かう。ビルが犇めく中を抜けると徐々に高い建物が減っていく。代わりに見えてくるのは懐かしい景色………二年経過しようがまったく変わらない、俺の住んでいた町だ。

みんな元気にしているだろうか。幸村は相変わらずだろうし、佐助も幸村の世話をしているのだろう。元親と元就は喧嘩しながらも仲良くしてるはず。慶次はどうだ?また旅に出てるかもしれない。久しぶりに会いたい。だが今一番逢いたいのは………恋人の名前だ。もっとも、恋人と呼んでいいのか不明だけど。俺がアメリカに留学したのも彼女がきっかけだった。

どうしてああなったかはわからない。3年も一緒にいたせいかすれ違うことが多くなり、逢っても喧嘩ばっかだった。このままじゃ俺達駄目だと思ったから距離を置くことにした。前々から留学の話があったからそれに乗ったんだ。あいつにもその事を説明しようとしたが怒鳴りつけるだけで聞きやしない。そのうち俺も頭にきて言い合いに発展、結局そのままだ。ちゃんと納得してもらって笑顔でいってきますって言いたかったのに。

単身、知らない地にやって来て、俺の名前への想いも薄れていくのかと思っていたが違った。1ヶ月もしないうちに気付いた。

あいつが何よりも大切で今でもこんなに好きなんだ。もっと優しくしてやるべきだった。あいつの言い分に耳を傾けてやるべきだったんだ。

最後が気まずかったせいで尾を引いて電話も出来ず手紙すら出せなかった。そのまま月日は経ってあっというまに2年だ。普通だったら自然消滅したと考えるのが妥当だが、俺は諦めきれねぇ。元々、名前とは同棲してたんだ。あの家は俺の家でもあるんだから帰ったっておかしくはないだろう、と自分に無理矢理言い聞かせた。










とあるマンションの一室で立ち止まる。表札には『伊達政宗・苗字名前』の文字が。どうやらまだ俺はここの住人らしい。ドアノブを捻るが開かない。大事に持っていたこの部屋の鍵を差し込む。

「I`m home」

返事はない。短い廊下を突き進んだ先のリビングは、俺が最後に見た時と変わりなかった。自室に向かうと何故かドアは開いていた。敷居を越て周りを見渡す。荷物はほとんど運び出したため家具ぐらいしかない。目立つのは机の上に重ねてある洋書ぐらいだ。持って行く必要がないからとそのまま置いてった。動かした形跡がない。まるであの日のまま、時が止まったかのようだ。かといって放置されてるたわけではなく、掃除は行き届いている。

「嘘だろう」

俺の物など捨てられてるかも。そうじゃなかったとしても俺の部屋まで掃除してくれてるなんて思ってなかった。ただの親切心から?勝手に捨てたりしたら悪いから、掃除ぐらいしていてあげようか。そんな軽い気持ちからの行動か??それともお前も………

「Shit!!!」

リビングに戻ったがソファーに座ってゆっくり考えるような心境でもなくどうにか気を紛らわせたくて適当に目についたサイドボードの引き出しを引いた。

「An?」

正方形の缶が一つだけ。少なくても俺がいた時はこんなものがこの場所にあったことはない。何の変哲もない何処にでもありそうな缶なのに、心惹かれて蓋を開ける。中身はお菓子の類じゃなく手紙だった。一通だけじゃない、何通も何通も………テーブルに広げて数えてみる。全部で23通。全てに「伊達政宗様」と俺の名前と共に日付が記してあった。適当に一つ取ってみる。

「一昨年の12月………」

俺がアメリカに行ってからちょうど2ヶ月後から書き始め、1ヶ月に1通書いていた計算になる。内容はたわいのないような事ばかりで時々、本音や弱音が混ざっていた。1番新しいのを探す。見つけたのは今月分ので今日書かれたばかりの真新しい手紙だった。





今日は特別な日です。政宗覚えてる?実はね、今日は2人が付き合い始めてからちょうど5年目の記念日なんだよ。といっても、この2年間はまったく逢ってないからその分をカウントしてもいいのかわからないけど。それにこの状態は付き合ってると言っていいかもわからないしね。別れるとは言われてないから今でも恋人同士だと信じたいけど…難しいね。せっかくの記念日にこんなことを書くのもどうかと思うけどそれでも、全て吐露しようと思います。

よく聞く話しだけど、空ってどこまでも繋がってるんだよね?だったら、私が見ている空を政宗も見てるのかな…あは、こんなの私のキャラじゃないね。センチメンタルになってんじゃねーよ、って笑って欲しいな。

政宗の笑顔、もう何年も見てない。最後まで喧嘩のしっぱなしで思い出すのは怒ったような険しい顔ばかり…悲しいよ。私ね、政宗に留学するって言われたとき頭が真っ白になったの。遠回しに別れてくれって言われてるような気がして、別れたくなくて大声で喚いて………酷いことをだくさん言ったのに素直に謝ることも出来なくて、そのまま貴方はアメリカに行ってしまった。

誰かといる時も1人で部屋にいる時も政宗のこと探しちゃうんだ。ここにはいないってわかってるのに。心に穴が空いちゃったよ。離れてみて初めて気付いたの、政宗がどんなに大切だったかって事に。私、政宗に甘えっぱなしだった。優しいからどんどん我が儘になっちゃって、政宗のことは考えずに自分のことばっかり優先してた。呆れられるのも当たり前だよ。沢山傷つけた、ごめんね。信じてもらえないかもしれないけど今でも政宗のことが好きだよ。



どうしようもないくらい貴方に逢いたいよ。





紙面がやけにデコボコしている。そこに染みこんだ水分が乾ききってないような気がした。溜まりに溜まった手紙。そういえばあっちの住所とか国際電話用の番号とか教えてなかった。正確にはそんな余裕がなかった。


何だよ、一緒じゃねーか。後悔したのも、謝りたかったのも、恋しくて仕方がなったのも、全部。


便箋を封筒にしまい、全ての手紙を缶の中へ戻した。最後に缶を引き出しへと戻す。



「まさ、むね?」


ドサッ、という物音に振り向けば驚いているが名前いた。買い物をしてきたらしく足下にはビニール袋が落ちている。

何も変わってないと思ったけどそんなこともない。名前は2年まえに比べて格段に綺麗になった。よく他の男がほっといたな。本当に…泣く姿さえ美しい。だけどもう泣き顔は沢山、Don`t cry. 名前。今日は5年目の記念日だぜ。どうか昔のように笑って名を呼んでくれ。

俺達、お互いがお互いに甘えすぎて相手を思いやることを忘れてたんだよ。近すぎたから見えなかった、遠く離れて初めて気付くことだってあるんだ。それでいいじゃないか。大切なことを思い出せたんだからこの2年間は無駄じゃない、空白の時間はこれから埋めていけばいい。


「もうっ、逢えないかと、思った」

「んなわけないだろう」





何処にいたって戻ってくるさ。俺の帰る場所はお前なんだから。






そして もう一度ここから
(二人手を取り合って歩き始めよう)










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わかる人は多分わかるある曲を元にしたお話。2年も離ればなれになってたら自然消滅するのが普通かもしれませんが、こんな恋もあるって信じてみたい。そんな思いを込めて書きました。


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