俺なんかが抱きしめると折れちまいそうで、でも、抱きしめてないと消えてしまいそうで、どちらにしろ不安な女だった。





名前は元々身体が弱くほとんどを布団のうえで生活していた。あまり外に出ないせいか色が白くどこか儚げだった。おかしな話し、笑った顔が特に儚いように思えた。己の命の刻限がわかっていたのだろう。俺もわかっていたから暇さえあればお前の元を訪ねていた。

らしくもないし、知っていた。そんなもんはこの世にありはしない。それでも願わずにはいられなかった。


このままずっと穏やかな時間が続けばいい、と。


だが乱世はそれを許してはくれない。ことある事に勃発する戦、自分が病で死ぬのが先か、俺が戦いで死ぬのが先か…そんな不安に呑まれながらもいつも笑顔で見送ってくれた名前に俺はいってくる、と残すことしか出来なかった。そして俺が戦に出てる間に病で亡くなった。一人でひっそりと、帰りを待たずして逝ってしまった。

政宗様が天下統一を果たして平和になるとことある事に蘇る、色鮮やかな思い出。今になってわかった。柄でもないが俺は名前と共にいられて幸せだった。そして不安になる。名前はどうだったか。幸せだったなんて俺だけで、ただの自己満足でしかなかったのかもしれない。そんなことばかりを考える。

ただ一つ。訊きたいことがある。名前、お前は俺といて幸せだったか?





「小十郎ー届け物ーー」

「もう少し静かに入ってこれねぇのか成実」

「ごめんごめん。はい、これ」

「文か。誰からだ?」

「さぁ?梵に持ってってやれって言われただけだから」

「政宗様に?」

「そう。俺は退散するから中見ればいいよ。それじゃ」

「…………」



静になった部屋で文を開いた。





小十郎様

そちらはどのような世になっているのでしょうか。政宗様が平和にした世であればきっと誰もが笑って暮らしていると思います。とても喜ばしいことです。

この文を直接貴方に渡さなかったのは足枷になってしまうと考えたからです。だから、時期がきたら渡してくださいと政宗様にお頼みしました。あのお方ならきっと頃合いを見極めてくれるでしょう。

一つお尋ねしたいことがあります。だけどそれはとても恐ろしくて口にすることができません。生きている間は言う気にもなれないのです。ですから、文にしたためることにしました。卑怯なやり方だとわかっておりますが、どうかお許しください。

私は外にでたこともなく、生活のほとんどを布団の上で過ごしておりました。何も知らずに、知ることも出来ずに、ただ生きてるだけの私でしたがそれでも満ち足りた人生を送ることが出来ましたた。それは小十郎様のおかげです。貴方様が私に会いに来てくれることが何よりも嬉しく、貴方様のお話しに耳を傾けることが何よりも楽しく、貴方様と少しでも多くの時間を共にすることが私の生き甲斐でありました。

私はとても幸せでした。この身に有り余るほどの幸福をいただきました。だからこそ、小十郎様に恩返し出来ずに逝くことが心苦しいのです。不安なのは私ばかりが幸せだったのではないかということです。私は貴方に何か残すことができたのでしょうか。


ねぇ、小十郎様。貴方は私といて――――――










最後の一文を指でなぞる。俺達は似た物同士だったらしい。自分が幸せなら相手も幸せだということがわからなかった。最期までそのことを心配しながら逝ったのだろう。生きている間に伝えなかったことを悔やんだ。



聞こえるか?名前。俺はお前と同じように………幸せだった。



湧き上がってくる物を耐えるために瞼を閉じた。自然と思い浮かべた名前は笑っていた。





幸せでしたか
(そんなの、俺が訊きたかったんだよ)










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恋文様に提出。

テーマを元に書かせて頂きました。想ってるからこそ不安で相手の気持ちがわかったときにはもう傍にいない。そんな切なさが伝われば幸いです。最後になりますが、素敵な企画に参加させて頂き有難うございました。


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