「ストップ!止めてください!でないと…今後一月何があっても絶対に口を利きませんからね!父様!!」

ぴたり。
留三郎に向かっていた足が宙で静止した。そのまま地面へ戻しながら、父様は憮然とした顔を私に向けた。

「何そのずるい脅し」
「ずるくないですよ。だって父様がやめてくれないから。使える手札を使っただけです」

私は唇を尖らせる。そもそも私たちは実習中なんですよ。そこのところ思い出してくれませんか。成績下がったらどうするんですか。

「えー?いいよ。別に。お前の実力なら十分知ってるから」
「そういう問題じゃありません、父様」
「……父様?」
「へ?」

呆然とした声に顔を向ければ、声と同じような顔をした六人がぽかんと口を開けて私たちを見ていた。

「あ、あれ…どしたの皆。て言うか大丈夫?怪我してない?」

今更ながらに思い出して声を掛けては見たけれど、六人揃って惚けたような顔でろくな返事がない。うわ、仙ちゃんまでぽかーんとしてるって貴重だなあ。いやそうじゃなくて。
下ろしてくださいと腕を叩いて訴えれば、渋々ながらに父様は私を解放してくれた。

「だ、大丈夫?」

留三郎?何。何やらブツブツ呟いてるんですが。

「父様…?父様って父親だよな?母親じゃないよな?え、こいつが父親?え?マジで?」

大丈夫か君。父親と言えば母親ではないだろう。どこか打ち所が悪かったのだろうか。慌てて他の五人に助けを求めようとしてみたけれど、似た者同士である為なのか文次郎もそんな感じだった。

「い、伊作。どうしよう、あの二人…」
「へ!?あ…ああ、あれは多分放っておいても大丈夫だと思うよ…多分」
「え、そう…?じゃあの仙蔵と長次は?何か二人とも無言で固まってるんだけど!」
「時間が経てば解凍するんじゃないかな…多分」
「ていうか君も大丈夫なの?さっきから語尾が多分なんだけど」
「多分大丈夫だよ、多分」
「あんまり大丈夫そうじゃないねえ」
「それを父様が言わないで下さい」
「……朔」

ハッと振り返り、私は小平太の肩を掴むとがくがく揺さぶった。

「こ、小平太!小平太は?大丈夫?」

最早最後の頼みとばかりに詰め寄る私に対して、小平太は揺さぶられるままながらも「朔こそ落ち着け」と宥める余裕はあるようだった。

「うん、私は大丈夫なんだけど…。父様ってどういうことだ?」
「どういうっていうかそのまんまなんだけど…」

一体私は何と説明すればいいのだろうか。何だか事態がどんどん複雑化している気がするんだけれどこれは気のせいだろうか?

「えーと」

襟元を掴んだままだった私の手をやんわり離しながら、小平太は「朔」と私を呼んだ。

「ゆっくりでいいから話してくれ」
「小平太…」

一体どこから話せばいいのだろう。いまひとつ纏らない思考をそれでも纏めようと口を開こうとしたその時である。

「とう!」

しゅたッと私と小平太の手を切り離すように、手刀が落ちてきた。

「へッ!?」
「はッ!?」

何事!?
二人同時にそちらを向けば、腕組みした犯人――もとい父様がじとりとした目を向けていた。

「と、父様?」

何なんですか一体。行動の意味がわからない。

「何って…。いつまで手を繋いでんのかなーと思って。ていうか七松君だよね、確か。君ちょっとうちの娘にべたべた触り過ぎじゃない?」
「は?何言ってんですか父様」

べたべたって大袈裟な。大体話をややっこしくしたのはそもそも父様な気がするんですけども。

「小平太はそんな変な意味で触ってるわけじゃありませんよ」
「朔はちょっと黙ってなさい。これは親としての警告です」
「いやいやいやいや。何ですかそれ」
「朔」
「あ、ごめんね小平太。気にしないでいいよ」
「娘って、親子なのか!」
「あー…うん。そうだねそういうことだね」

ははは…。最早乾いた笑いしか浮かばない私を余所に、父様は「そういうこともなにも、事実でしょうが」と口を挟む。
小平太の声に引き戻されたように、覚醒した他の五人も口々に何か叫び「何で」「どうして」「いつから」と会話が混線していく。
ああもう。

「頼むから一人ずつ喋っておくれ!」

私は聖徳太子じゃないんだから!
私の絶叫が響いたのは言うまでもない。


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