「組頭、小頭」
「あ、陣左兄だ」

久しぶりーとぱたぱた手を振ると、現れたつり目の青年はその目元を少し和らげて「久しぶりだな」と頭を撫でてくれた。
控えめな手つきが少しくすぐったい。

「ああ、陣左。どうだった?」

湯飲み片手に訊ねたのは陣内さんだ。

「どう、って。陣左兄、仕事?」
「仕事と言えば仕事だな…」
「は?」
「尊奈門を探してもらっていたんですよ」
「尊くんを?え、何迷子なの?」

それはないだろう。ああ見えて若手の中では有望株なんだし、と歳の近いタソガレドキ忍者を思い浮かべていると、陣内さんが疲れたような溜息を吐いた。

「むしろ迷子だとよかったんですけどね」
「え?」

どういう意味だそれは。

「で、陣左。尊奈門は」
「はい、それがやはりといいますか何と言いますか」

土井半助のところでした。

「……やっぱり」
「土井先生のところ?」

担任教師の名は聞き流す事ができなかったのだろう。庄左ヱ門が口の中の大福を飲み下し、首を傾げた。

「尊奈門さん、もしかしてまた土井先生に決闘を申し込みに来られたんですか?」
「いや、当初は組頭を迎えに行かせただけだったんだが……」

偶然というかばったり土井先生に出会ってしまったが為に、そういう話になってしまったらしい。

「で?尊奈門はどうなった?」

もちもちと大福を咀嚼していた父様が口を開くと、陣左兄がスッと背筋を伸ばした。

「はい、尊奈門は」
「尊奈門は」
「今日も完敗しました」

陣左兄。もうちょっと何か包んであげた方がよかったんじゃないですか。一年生まで反応に困るって顔してますよ。

「……あの、陣左兄」
「ん?何だ」
「豆大福、どうぞ」

手元にあった一個を渡して、ついでにお茶も渡す。
食べ物は偉大だ。気まずい話でも何とかしてくれるから。

「まだまだだな、尊奈門も」
「ですね…。帰ったらまた修練に励んでもらわなければ」

組頭と小頭にそんな評価を下されているなどとよもや思っていないだろう尊くんに、少しだけ同情した。

「あ。蓮咲寺先輩」
「どしたの庄左ヱ門」
「鉢屋先輩たち、どうしましょう」
「……あ」

忘れてた。


日々是喧騒!
(20110820)

るるこ様リクエストで『学園に遊びに来た組頭+連れ戻しに来た尊くんと曲者を追う上級生その他に、高みの見物を決め込んでほのぼのお茶している山本さんと陣左兄と夢主と庄ちゃん彦ちゃん。』でした。お待たせ致しました。その割に『曲者を追う上級生』要素が少なくて申し訳ありません。その反面、黄昏親子は非常に楽しく書かせていただきました。素敵なリクエストありがとうございました!


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