三郎。鉢屋三郎。いつも面で顔を隠している同級生。変わり者で、でも優秀で。変わり者のくせに。変わり者だけど。

何でだろう、指先が震えた。どうしようもなくて、止めるようにぎゅっと握り締める。それでも震えは伝染するみたいに手が小刻みに揺れる。
何で?どうして?このひとたちにこんなことを言われなきゃいけないんだよ。おんなじ忍たまなのに。このひとたちだって先輩なのに。どうして他の先輩たちとはこんなに違うんだよ。

わけもわからないままこみ上げてくるものがあった。三郎とそんなに仲がいいわけでもないのにおかしい、こんなの。そう思うけどじわりと視界が滲む。悔しくて悔しくて、あふれるものを堪えるように俯いた俺の手を、ぎゅっと握ったものがあった。

「……朔、先輩」
「大丈夫だよ、勘右衛門」

いつも通り、へらりと笑い、先輩は俺の頭を一度撫でた。一つしか歳も変わらないのになんですか、その子ども扱い!といつもの俺だったらきっと噛み付いた。でもそうする気にはなれなくて、俺はぽかんと間の抜けた顔で先輩を見た。

「あの先輩たちはね、三郎に嫉妬してるんだよ。三郎ってほら、出来がいいでしょう?だからあんな風に負け惜しみしかいえないんだよ。可哀想な人たちなの」
「…………」

何だろう。今笑顔でとんでもないことをこの人言った気がする。

「蓮咲寺!お前ッ!」
「何ですか?怒るってことはほんとのことって認めるようなものですよ?ついでに言いますけど、私たち学園長先生のところに行くって言いましたよね?委員会なんです。あんまり遅いときっと先輩たちが心配して探しに来ちゃうかもなあ」

それって困りません?
誰が、何て言わない。だけどそれは間違いなくとどめの一押しだった。
三年生たちは「覚えてろよ!」なんて最後まで小物みたいな捨て台詞を残して駆け去っていった。残されたのは俺と先輩だけ。

「あーもうやっと行ってくれた。ごめんよ、勘右衛門。付き合わせて」
「…あの…先輩」
「ん?なあに?」
「先輩、もしかしていつもあんなこと言われてるんですか?」

あんな敵意とかそんな嫌なものしか感じられない言葉を向けられているんですか?

「え…っと…」

先輩は気まずそうに目を逸らし、あさっての方向を見ながら言い訳のようなことを口走る。

「いつもじゃないよ。うん。それにいつもは結構小平太たちが助けてくれたりもするし…うんそう。大丈夫…ってあれ私何言ってんだろう?」

とにかく、と先輩は言う。

「勘右衛門とか三郎には絡んでこないようにするし、大丈夫だよ。…今日はその、ごめんね?」

申し訳無さそうに眉を下げるその人は、やっぱり少し変な人だとそう思った。

「あ、でももし何か言われたら、先輩たちの名前出すといいよ。あのひとたちウチの先輩には弱いから!」

どこの委員長も自分の委員会の後輩は可愛いもんだってこの間言ってたし!と何でか自信満々にそう言われた(というかウチの先輩たちは結構輪をかけて甘いと思いますよ…)。
訂正、蓮咲寺先輩はやっぱり変な人だと思った。

「…勘右衛門、今、笑った?」
「わ、笑っちゃダメですか」
「え、そんなことないよ?」

首を振った先輩は、何だかとても楽しそうだった。


俺や三郎が、この変な先輩の本当の性別を知るのはこれから一年くらい後の話。
朔先輩なら何でもいいやと思えるようにまでなっていたというのは、また別の話。


ゆっくりゆっくり一歩ずつ
(積み重ねていきましょう)

(20110804)


律様リクエストで『天泣夢主と学級五年二人が低学年の頃の話し』でした。尾浜でネタが降りてきたはいいけれど、あれ、鉢屋どこ行った?展開で鉢屋をご希望でしたら申し訳ありません。少しでも楽しんでいただければいいのですが…。へ、返品は随時受け付けております。今回は素敵なリクエストありがとうございました。



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