ちっちゃくなっちゃった!

起こった事象を現実と認識するには些か困難が生じていた。
それも仕方ないとその場に居合わせた全員が互いに頷き合ったことを誰が責められようか。

落ちた沈黙の先には、小さな子供がひとり。
一年生よりも更に幼いその子供はおろおろと周囲を取り囲む彼らを見上げていた。
子供を取り囲むのは毎度お馴染み藍と松葉の制服の一団であり、その輪の中央にいる子供は彼らのよく知る人物に他ならない。

六年ろ組学級委員長蓮咲寺朔。年は十五。……のはずだ。間違いないはずだ。何だこの現状は。

混乱する頭でそれぞれが同時にそんなことを考えた。現実は特に変わらなかった。
何がどうしてこうなった。

さっぱりわからないが、身体が縮んだというか、幼児のそれになたことは動かしようのない事実である。

「……おい」

最初に我に返った――わけではないが、一歩前に出た文次郎の声に、子供はびくりと肩を揺らした。
おどおどと文次郎を見上げる子供の目に薄ら涙が滲んでいる気がするが、残念ながら助け舟はどちらにも出なかった。

「お前、何でそんなことになったんだ」
「…え…あの…」

はの字に寄った眉と今にも逃げ出しそうな及び腰は、普段の彼女からは想像もできない。

「そう言えば朔は昔はよく泣いていたな」

今それを言うな!という文次郎の雄弁な視線をものともせずに、仙蔵がぼそりと呟く。

「…ということは姿だけでなく思考も幼児化しているということか…?」

ぶつぶつと独り言の如く繰り返す仙蔵の言葉は一同の不安を煽るだけ煽る。

「心配するな、私がお手玉にしてやろう!」
「いや待ってください七松先輩!それだけは!今この状況だと間違いなく逆効果ですからッ!」

何の根拠があるのか自信満々に身を乗り出した小平太を、顔色を変えた八左衛門が押さえようと必死に身を乗り出す。

「竹谷!そのまま押さえとけ!伊作!原因は何だ!?」
「え!?僕!?ちょ、ちょっと待って今考えるから!そうだ長次、長次に心当たりは!?」
「…心当たり…」
「中在家先輩、頑張ってください!僕も考えますから…いや、でも先輩にわからないことが僕にわかるか…?」
「雷蔵、ここは迷うところじゃないぞ。ここは…」
「ここは?何だい、三郎?」

「ここは全力で先輩を愛でるべきだと思う」
「さんせーい!」
「同じく」

当の本人を差し置いて、周囲は混乱を極めていた。
のんびりとした声が割って入ったのは、不幸中の幸いであった、のかもしれない。

「あれー、どうしたの、君たち」

随分とにぎやかだねえ。
一同が慌てて振り返った先、黒装束と包帯に身を包んだ長身の男は首を傾げて面白そうに立っていた。

「あ、念のために言っておくけど、今日はちゃんと入門表に名前を書いたから曲者じゃないよ」

そんな問題ではない。しかしそれ以上の問題が起きている最中ではそれは些事に過ぎなかった。

「…父様!」

喜色を滲ませた幼い声が響いた。

「え?」

呼ばれた当人すら間の抜けた声で目を丸くする中で、今にも泣き出しそうに周囲を見回していた朔が、その男の姿を見つけるや否やパッと顔を輝かせた。

「父様、父様!」

早く捕まえなければ消えてしまうとばかりにとてとてと駆け寄ったかと思えば、朔は雑渡の足にしがみ付いた。小さな身体を隠すようにぎゅっと身を寄せる。

「…………」

妙な沈黙が流れた。

「……よしじゃあ帰ろうか」

いや待てちょっと待て。
養い子を小脇に抱えてさっさと踵を返そうとする雑渡を留める為にまたひと悶着起きることは想像に難くなかった。


‐‐‐

(途中まで。続く…かどうかは天のみぞ知る)

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