それは僕らの再会劇@ 待って待って、探しても見付からない。 たったひとり、あいつだけが。 ひらひらと桜の花が風に舞う。 時代が変わろうと、桜の花は変わらない。 そんなことを思うのは、感傷的になっている証だろうか。 中在家長次は襟元のタイを少しだけ緩めながらため息を零した。 教室へ向かう廊下が何だか妙に長く感じる。それもこれも隣に並んだ友人のせいである。 自分は生来無口な性質だが、逆に普段かしましいほどよく喋り動く人間が黙り込むとどうにも気まずいというか収まりが悪いものだ。 まあその気持ちは痛いほどよくわかるが。 「……小平太」 「何だ」 「その顔は何とかならないか」 「顔?」 怖いからやめろ、というと隣の友人――七松小平太はぴたりと足を止め、長次をマジマジと見遣った。 「どういう意味だ?」 「……不機嫌が全面に出ている……」 気付いていなかったのか、とまた溜息。小平太はぺたぺたと顔を触りながら「え、そんなに?」と今度は首を傾げた。 「そんなつもりはなかったんだけどなあ」 自覚するや否や不機嫌全開という主張こそ引っ込めたものの、今度は露骨に肩を落としてしょぼくれてみせる。実に忙しい。 「……気持ちはわかるが」 自分だけではない。伊作も留三郎も、仙蔵も文次郎も。後輩たちも。 小平太ほど表に出しはしなくとも、この時期になると、彼らは期待に胸を膨らませ、裏切られては塞ぎ込む。 もう何度、それを繰り返しただろう。 ぼんやりと、自分の内に沈みそうになっていた長次を、「だって」と少し拗ねたような小平太の声が呼び戻した。 「だって、朔だけが見付からないんだぞ」 そんなの、おかしいじゃないか。 まるで駄々っ子のような幼い物言いだが、それを笑うこともたしなめることもできなかった。 それは長次の思いでもあったからだ。 蓮咲寺朔。 いつだってへらりと笑っていた友人の顔が脳裏を過ぎった。 どういう理屈か欠片もわからないが、自分たちは『あの日』の記憶を秘めたままこうして再び生を受けた。 ひとり、ふたりと再び出逢い、こうしてまた同じ学び舎で共に歩んでいるというのにたったひとり、朔だけが見付からない。 自分たちは今年で十六。 かつて忍の学園で過ごした歳をついに越える。 だというのに。 不機嫌になるのもごねるのも、溜息をつくのも仕方がない。 ちっとも春めいた気持ちにもならず、けれどいつまでも廊下の真ん中で立ち止まっているわけにもいかない。二人は仕方なしに歩き出した。 大川学園高等部、一年ろ組。ここが、今日から一年を過ごす教室だ。 浮かれてはしゃぐ男子生徒や、さっそく友人を作ったのだろうグループできゃっきゃと笑いあう女子生徒の声が教室からは漏れ聞こえている。 きっとこんなに塞いでいるのはこのクラスで自分たちだけだろう。 唯一の救いは記憶と共にこの薄暗い気分を共有できる人間がいることだろうか。…あんまり救いとも言えない気もするが。 などとつらつら考えていた長次は、隣にいたはずの小平太の姿が無いことに教室に入って気付いた。 「小平太?」 振り返れば、小平太は入り口で足を止めていた。長次は訝しげな顔をした。 小平太は、金縛りにでもあったように直立不動で微動だにせず、丸い目を更に丸く見開いて立ち尽くしていた。 「小平太?」 声を掛けても動かない友人の側に寄り、肩を叩いた。軽く触れた程度だったが、驚いたようにその肩は大きく跳ねた。 そんな反応をしていながらも、小平太の動きはぎこちない。ゼンマイ仕掛けのおもちゃのようにゆっくりと、驚きだけが滲む顔をようやっと長次に向けた。 「……長次」 「どうした?」 「……いた」 「いた?」 いた?一体何だ。何の話だ? 胡乱気に首を傾げる長次にじれたように、小平太は小さく叫んだ。教室の片隅で席についていた一人の少女を指差して。 「見つけた!朔だ!」 再演へのベルが鳴る (20120131加筆:拍手ログ) [しおりを挟む] ×
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