七松



※注!薄暗いです。苦手な方はバックプリーズ!






襟元から覗くうなじの白さに思わず唾をのんだ。
惹きつけられて目が離せない私に気付くことなく、朔は他愛ない話を続けていた。

「それでね。……小平太?どうかした?」

ふと顔を上げた朔と目が合う。不思議そうに小首を傾げる姿は、小動物のようだ。
ああ、食べてしまえばお前はどんな味がするのだろう。
仄暗い気持ちが鎌首をもたげる。

白い首に歯を立ててみたい。そうして頭のてっぺんからつま先まで、全部全部私の血肉としたならば、こんなにも餓える心と決別できるのだろうか。

いくら想いを注がれても、私は何故か乾いた部分を持て余し際限なく求めてしまう。
けれどもしも、これをすべて食べてしまえば、ひとつになって溶け合ってしまえば、私たちは二度と離れることなどないだろう。そうすれば、この飢えとも渇きとも言えるものから逃れられるのだろうか。

ぱちり、と目を瞬かせる朔の頬に指を伸ばした。やわらかな輪郭をなぞる様に這う指に、朔はくすぐったそうに首を竦めたが拒絶されることはなかった。
きっといつもの戯れと思っているのだろう。
その信頼が、胸を刺して痛む。

「小平太?」

朔の小さな手が伸ばされる。そっと私の顔に触れたそれは、昔と変わらず少しだけ冷たく、あの頃と異なり柔らかかった。
隣でいれば何も言わなくても分かり合えた。ひとつでなくとも同じものを見ていられた。
その幸福と充足感。
巡り巡って今やどうだ。
うっそりと私は笑った。朔の瞳に映る自分がひどく醜く、けれど頭のどこかでは人間らしいではないかと囁く自分がいる。

「朔」

腕の中にその小さな身体を捉えて抱き寄せた。

「朔」
「何?」

ぎゅう、と骨が軋む音が聞こえるほど力を込めて抱き締めた。いっそ壊してしまおうか。この腕の中、お前が消えないように。

「どうしたの、小平太」

歌うような節回しで、朔が私を呼ぶ。その声を耳元で聞いた。
私の背に腕が回される。
私のそれとはまるで異なる、柔らかな抱擁。
宥める様に慰める様に、ただ暖かな、それ。

「なあ、朔」
「うん?」
「私の願いを、お前は叶えてくれるか?」
「願い事?何だい?」

それは、

「       」

紅い紅い唇は、椿の花に似ている。甘く痺れる頭で考えたのはそんなことで。
そのくちびるが、緩やかに弧を描き、笑んだことだけを覚えている。
それだけで、泣きたくなるほど胸が疼いた。

嗚呼、君が愛おしい。
(こんなにも)(こんなにも)
(20131030)


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