笑顔最強花嫁御寮!

昆奈門様のこと、ですか?
ええ、大好きですよ。
どこが、と言われても難しいのですけれど、あえて言えば全部、でしょうか。
怖い?いいえ?だって私が出逢ったのは、今の昆奈門様ですもの。最初からずっと変わらない方にどうして怖いなどと思うでしょうか。
え?どうしてそこまで好きなのかわからない?
そうですねえ、それがお慕いするということなのかもしれませんね。
尊くんもきっといつか、そんな方が現れますよ。そうしたら私の気持ちもわかるんじゃありませんか?
それに、尊くんも昆奈門様のこと大好きでしょう?
ふふ、そんなに否定すると、昆奈門様が泣いてしまいますよ?
泣きますとも。あれで子どものようなところがある方ですからねえ。



「そこまで組頭のことを理解なさっているのでしたら、家出などなさらずにお戻りください」

頭痛を覚えるのは決して気のせいではない。
痛むこめかみを揉み解すように指で押さえながらそう言えば、少女のような容貌の小柄な女はころころと笑った。

「まだだめですよ」
「何故ですか」

迎えに来なければならない自分の身にもなって欲しい。

「あなたがいらっしゃらないと、組頭が輪をかけて駄目な大人になるんですが」

切なる思いを込めた訴えに、女は目を細めて首を傾げた。

「そうなんですか?」
「そうですよ。日がな一日ぼんやりしていたかと思えば、今度は露骨に不機嫌になるし、仕事をされないのはともかく二次被害は甚大だし……」

今頃その二次被害の後始末に奔走しているのであろう、小頭やその他の面々を思い浮かべ、尊奈門は深々と溜息を吐いた。

「まったく、あなた方は普段は暑苦しいほどに仲睦まじいくせに……」
「あら嫌だ。尊くんどんどんお口が悪くなりますねえ。一体誰の影響なのかしら」
「……」

間違いなくあなたの夫君の影響だと声を大にして主張したいところだが、困りましたねえと頬に手を当て眉を下げる女を前にそんなことが言えるほど尊奈門は強くなかった。

「……ともかく、喧嘩する度に家出なさるのはやめてください。大体、今回の原因は何なんですか」
「原因?ふふふ。秘密です。でも一つ言えるのはね」
「……はあ」
「九割方、昆奈門様が悪いという事ですよ」
「……きゅ、九割……」

喧嘩両成敗。両者の言い分を聞いて冷静に判断する必要があるはずなのだが、彼女がにこりと笑顔を浮かべてそう断じると、何故か「そうなんですか」と頷いてしまいそうな説得力がある。
この笑顔、恐るべし。…ってそうじゃなくて。

「さすがに九割は言いすぎでは……」

若干話がずれていることにも気付かずに、尊奈門は思わず己の組頭の擁護に回った。そんな尊奈門に相変わらずにこにこ笑いながら、それでも彼女はきっぱりと言い切った。

「いいえ?だってね、尊くん」
「はあ」
「昆奈門様は迎えに来ないでしょう?」
「……へ?」

一見脈絡のない台詞に、「どういうことですか?」と間の抜けた声で訊ね返す。
すると彼女は、「あのね、尊くん」と幼子に言い聞かせるように口を開いた。

「あの方が自分は悪くないと思っておいでなら、そもそも私が家を出ることをあっさり見逃すと思います?」
「…………」
「その上で、尊くんをわざわざ迎えに寄越すと思います?」
「…………いえ」

仰るとおりでございます。
思わず土下座したくなった。組頭に代わって謝りますので勘弁してくださいと。
確かに、あの人一倍妻に対する執着が強い男が、黙って妻の家出を見逃すだろうか。仮にもタソガレドキ忍軍の頂点に立つ男である。本来、忍でもない女一人がその目をくぐって行方をくらませることも難しければ、連れ戻されずにのんびり茶を啜っているというのもおかしな話で、要するに、自分の否を理解しており後ろめたいから家出も見逃したし連れ戻しもしないということである。

「自分の否を理解しておられるのに、尊くんに押し付けるなんて、ずるい方」

ねえ?と彼女は笑っているというのに、背中を冷たいものが滑り落ちる様なこの感覚は何なのだろう。ていうか何でそもそも自分がこんな目に。

「だから私、帰りませんよ」

ふふふ、と微笑む彼女に対し、はははと思わず乾いた笑いを浮かべてしまった自分は決して悪くないと、尊奈門は誰にともなく心で叫んだ。


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