烏が歌う。

きっと伊作と一緒にいたからだわ。
だからわたしまで、不運が移ったのよ。

ぎり、と爪を噛み、娘は顔を歪めた。
櫛に簪、帯に着物に、いくらあっても足りない。まだ足りない。もっともっと、自分を飾らなければ意味がない。

呪いの言葉を吐くように、娘はひとりブツブツと呟き続ける。

だってそうじゃなきゃおかしいわ。
これはわたしの物語。なのにあんなモブ女が存在していること自体間違いなのよ。

闇に揺れる小さな灯り、それが照り返す娘の表情はまるで鬼女のようだった。
天女とは名ばかりの、俗世に塗れた娘は吐き捨てる。

「あの女が…!あの女がいるから…ッ!」

爛々と輝く瞳は憎悪に塗りつぶされていた。

「だから全部狂ってきているのよ。あんな異分子がいるから、五年生たちは惑わされているのよ。だってそうじゃなきゃ、三郎が『あんなこと』を言うはずがないのよ。わたしに三郎が!」

消えろ消えろと幾度となく呪詛を繰り返し眦を吊り上げるその様を、彼女を崇拝する人間が見たならば、何か変わっていただろうか。それとも更に歪んだろうか。
それは誰にもわからない。

「いくら六年生だって、伊作となんていなきゃ良かった!不運が移されるなんてひどい目に合わずに済んだのに!伊作といれば雑渡さんと会えると思ったのに!出てきたのはあんな曲者……」

娘はふと、何事かを思い出し、煌びやかな化粧箱をひっくり返し始める。それがどれだけ値の張るものか理解しようともしていない彼女の扱いはぞんざいで、多少傷つこうが新しいものを手に入れれば済むとしか思わない。

「そうよ…三郎は、わたしの三郎なんだから…。あの女に誑かされてるんだわ。そうに決まってる」

化粧箱の底から目当ての紙片を探し出した娘は、赤い唇を吊り上げにたりと笑った。

「三郎を助け出すことが、わたしの使命なのね?ねえそうでしょう、神様」

それがわたしたちの試練なのでしょう?
恍惚を浮かべ、娘はわらう。

「ねえ、ぜんぶぜんぶ、あんたが悪いのよ?あんたが存在してるから、それが間違いなのよ。わたしはそれを正してあげるだけなんだから」

くすくすと楽しげにわらうその姿を、黒い影が見つめていることを知る由もなく。


「休憩時間は終わりです」
(20130713)


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