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某委員会所属の三年生から私個人名義で寄せられたそれは、所謂嘆願書である。記されている中身を要約するとこうだ。 ――委員長が委員会に来ないから、もうどうしようもないんです。お願いですから何とかしてください。 「何とかって言ってもねえ」 私は学級委員長であり、学級委員長委員会委員長であって、間違っても委員長取締り係ではない。 裏々山キノコ協同組合副組合長に張り合える程度にはややこしい己の肩書きを頭に浮かべ、それからもう一度嘆願書へ目を落とす。 各委員会委員長は、六年生が務めている。火薬・生物のように六年不在の為に五年生が委員長代理を務めているところもあるが、概ね最上級生が中心となり委員会活動を取り仕切る事で運営されているのだから、その委員長が顔を出さないとなれば下級生たちは困惑するであろうし活動にも支障をきたす。かといってその下級生から六年生へ委員会へ出席してくれとも言い辛いものがあるのだろう。 それは予想できるのだが。 「委員長が委員会に来ない……ってああ。アレが理由ですか」 嘆願書に最後まで目を通すや否や、三郎は呆れたように紙を弾いた。 「アレ?」 「あれ、先輩はご存じないんですか?」 珍しいものでも見るように、三郎が目を丸くする。 「天女、ですよ」 「ああ…。それか」 そういえば、そんなものが現在学園に滞在中だったと今更ながらに思い出す。 「もう半月ほどになりますよ」 「委員長が委員会に顔を出さなくなった時期としては、ちょうど当てはまるか…」 どうしたものかなあ、とまた溜息がこぼれる。今日だけで一体私は何度溜息をつけばいいのか。 「んー…」と首を捻る私に、三郎が不思議そうな顔をする。 「どうしたの」 「先輩は、七松先輩と仲がいいじゃないですか」 「うん?まあ……」 「七松先輩は、天女について何か言っていないんですか?」 私はてっきり、先輩は現状を把握した上で放置しているのかとばかり思っていたのですが。 「……最近、小平太がやたらと彼女のことを言ってくるなあとは思ってたんだけど。まさかそこまで入れ込んでるとは…ほらあの年頃の子ってアイドルとか好きでしょ」 「は?あいどる?」 「あー何でもない。こっちのこと。それに彼女が来て最初の三日くらいは皆警戒してたでしょう。私はその直後からしばらくお使いで外に出てたし……。最近バタバタしてたせいで食堂に行く時間も皆とずれてたし…正直あんまり把握しきれていなかったというか」 別に悪いことをしたわけでもないのに何故か最後は小声になる。彼女を最初から警戒していなかったし、誰に言う事もできないけれど警戒する必要性を感じなかった理由も持ち合わせている後ろめたさがあるせいか、我ながら何だか言い訳染みている。 そんなことを知る由もない三郎は、「まあ私たちも先輩のことは言えないんですが」と苦笑した。 「私たち五年が彼女と接触していないことはご存知ですか?」 「あれ、そうなの?」 「ええ、五年は傍観に回っています。六年生の意図がわかるまではせめて傍観に徹していようと決めましてこの半月、そうしてきました」 「意図?」 「あまりに彼女にご執心なご様子だったので、何かしらの意図があっての行動かと」 「……ごめんね、六年がわかりやすく彼女に夢中で」 何だこの居たたまれなさ。思わず三郎から目を逸らしたが、私は悪くない。断じて悪くない、と思う。 それにしても、『彼女』が現れて、もう半月にもなるのか。 [目次] [しおりを挟む] ×
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