天落
曲者がわたしを狙っている。 突然不躾に現れたかと思えば、蓮咲寺朔はそんなことを口にした。 続けて、曲者は自分や他の上級生が何とかするから、わたしはここを動くななんて馬鹿なことを言い出した。 ほんとに馬鹿みたいで、笑いそうになるのを堪えるのが大変だったわ。 だってわたしは『天女様』なんだもの。神様に愛された特別な存在。 だから、危険な目にだって合うかもしれないってちゃんと覚悟してるのよ。見くびらないでもらいたいわね。 それにね?わたしは『天女様』、この世界にとってとっても重要な存在だしこれは私のための世界なのよ?そもそもそんな私が傷付けられるわけないじゃない。 お姫様のピンチはちゃんと救われるようにできてるの!それをばっかじゃない?あの女。 大体アンタになんて助けてもらいたくなんてないのよ、こっちも。 蓮咲寺朔が何か言っているけど、そんなの聞かない。このフラグを完璧な物にする為に、わたしは小走りに外へ出た。 辺りは真っ暗で、風の音しかしない。いつもと何にも変わらない。 曲者なんてほんとにいるの?あの女の早とちりじゃないの?まったく人騒がせにも程がある。だから最弱なのよね、きっと。 つまらなくて、一言くらい抗議してやろうと、わたしは半身を返した。 その、瞬間だった。 闇の中からにゅっと突き出た腕に、口を塞がれる。 「ッ!」 反射的に、思わず身を硬くして逃げようと身体を捩るけれど、わたしを抱える腕はびくともしない。首筋に何かひやりとしたものが当てられて息を飲むと、耳元で馴染みない低い声が囁いた。 「貴女が、天女、様ですか?」 びくりと肩を揺らすと声が少しだけ笑った。 「ご安心を、大人しくしていただければ貴女を傷つけるつもりはありません。ただ、我々と共に来てくだされば」 まあ、抵抗していただいても構いませんが。 意味のわからないことを言って、口を塞いでいた手が離れた。何をするのかと首を傾げると、相手はわたしの髪を少し摘んで目の前に翳す。 「な、に…?」 ためらいなどなく、相手はわたしの髪をざくり、と切り落とした。 「抵抗されれば、次は貴女がこうなる番、というだけですからね」 「……!」 ふふふ、と言葉とは真逆のどこか甘い笑い声が響いたけれど、それはわたしの悲鳴でかき消された。 助けてみんな!早く来て?わたしはここよ?あなたのわたしはここなのよ! それを伝えなければいけないの。 それを届けることだけが、今のわたしの仕事なんだから。 真綿の準備はご覧の通り (20120302) [目次] [しおりを挟む] ×
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