天楽・弐
新しい簪に櫛に紅。 和小物ってやっぱり可愛い。 「ふふふ」 箱から取り出して、眺めて、髪に飾って。鏡の映りが悪いことは不満だけど、でもきっとわたしにはすごくすごく似合ってる。 だって六年生たちがみんなして「これが唯歌さんに似合う!」って買ってくれたんだもの。 わたしは、あれ可愛いねって言っただけ。欲しいなんて言ってないわよ?わたしが可愛いから、みんな可愛いものをくれるの。可愛いものは可愛い子が使ってこそ意味があるでしょう? わたしがこうして可愛いものに囲まれてたり身につけてたりすると、みんなだって幸せな気分になれるんだもの。 そういえば最近あんまり会わないけど、くのいちの子たちが遠くからわたしのこと見てたりするけど、あれって見苦しいわよね。嫉妬丸出しで。わたしが可愛いからってあんな顔で見るなんて同じ女としてちょっと同情しちゃうわ。教えてあげた方がいいかしら、嫉妬に狂うほど見苦しいものはないわよって。あはは。 でもわたしが愛されてるのは事実だし、ごめんねー?あなたたちが必死になっても、『天女様』にかないっこないんだものね。嫉妬する気持ちもわかっちゃうなあ。なーんて! ああ、明日は何色の着物を着ようかなあ。 緑?水色?ピンクのも可愛いし迷っちゃう。 明日もすごく可愛いわたしを見せてあげなきゃ。それがわたしの仕事なんだから。 そうだ、たまには四年生の子たちともお話してあげないとね、いっつも六年生とばっかりじゃ焼きもちやかせちゃう! タカ丸に髪を結ってもらうのもいいよね。そう思うと明日も楽しみ! にしても、この部屋ってちょっと狭いし不便なのよね。そもそも食堂の隣って何か下働き…ていうかメイドさんとかそんなのみたいだし…。普通『天女様』って忍たま長屋に住むものじゃないの?もう、学園長先生も気が利かないなあ。 そうだ、明日言ってみよう。みんなと離れてひとりだと不安なのって言えば、きっと長屋に部屋を用意してくれるよね! やっぱり天女様はみんなの側にいてあげないとだめだと思うの。そうなると六年長屋なのかな。……ああでも、六年といえばあの蓮咲寺朔と同じ屋根の下で暮らすのよね。それってちょっとウザいかも。 正直、あの女が忍たまの制服着てうろうろしてるのを見るのってイラッとするのよね。約束か何か知らないけど、忍たまの子たちの中に混じって調子に乗ってるんじゃないかしら。わたしみたいに、皆に愛されてるわけでもないんでしょう? わたしはほら、可愛くって優しくて、完璧だから愛されるの。 この間だって、は組の良い子たちと会ったんだけど、きり丸に優しい言葉を掛けてあげたのよ。きり丸なんて、感動しちゃったのか動けなくなってた。上級生たちにそんなところを見せられなかったのが残念だけど、偶然通り掛った土井先生にはしっかり見てもらえたからまあよし!ってところかなあ。 上級生とは仲良くしてるけど、先生たちとはあんまり絡んでないのよね。先生たちって恋愛対象外だけど、土井先生くらいまでなら大丈夫かなって思ってたしちょうど良かった。あとは利吉さんとか、海賊さんたちとかにも会いたいんだけど、焦っちゃだめ。きっとすぐに向こうから来てくれるだろうし。あの雑渡さんだって、会いに来てくれちゃったくらいなんだから。わたしってすごくない? まあ雑渡さんはお話しましょうってせっかく誘ったのに、また今度って帰っちゃったけど…きっと六年生が一緒だしその前で年の離れた女の子とべたべたしたらまずいとか思ったのかな。遠慮とかしなくてもいいのになあ。わたしが相手なんだもん、年なんて関係ないのに。 蓮咲寺朔にその事を話してあげたら、すっごく間抜けな顔してたわ。あんたなんかじゃ絶対できない約束でしょう?雑渡さんがあんたみたいな中途半端な子相手にするわけがないもの。 ああもうほんと、あの女どこかに消えてくれないかしら。モブのくせに男装ヒロイン気取りなの? それに学級委員長ってことは学級委員長委員会ってことでしょ?あそこは五年生が二人もいるのよね。委員会で顔を合わせるっていうのがそもそも気に入らないわ。 わたしはまだ、五年生とはちゃんとお喋りしたことないのに。 わたしにはね、この世界に来る前から決めてたことがあるの。わたしの運命の相手がいるなら『あの人』しかいないって。 住む世界が違うっていう問題は解決したし、これはもう本当に運命なのよ。私は『彼』に愛されるためにこの世界に来たの。きっと、ううん絶対に『彼』が私を呼んだの。 だから、五年生たちともっと近付かなきゃいけないのに。『彼』にわたしもあなたが好きってちゃんと伝えてあげなきゃいけないのに。きっと不安に思ってるわ。わたしが六年生や四年生とばっかり仲良くしてるから。 ああ、もう早くしなくちゃ。その為には、まずもっと可愛くしなくちゃね!着物も新しいの買って、簪だって他にも可愛いのがあるはずだし! 早く明日にならないかな。この世界って携帯もパソコンもゲームもないから、夜は暇なのよね。蛍光灯じゃないから薄暗いし。そういうところつまんない。もうちょっとなんとかならないのかなあ。 本も何だかミミズみたいな字で読めないし。長次が教えてくれるっていったけど、めんどくさい。こんな所にきてまで勉強しなくってもね。必要もないし。 そうだ、一回文次郎たちに頼んで夜の鍛錬見せてもらっちゃおうかな。でも危ないからって止められるかしら。ふふ、本当に心配性よねみんな。でもそれが愛されてるってことだもの、わたしも我慢してあげなくっちゃ。 早く早く明日にならないかなあ。 笑えや笑え、気付かずに。 (20110819) [目次] [しおりを挟む] ×
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