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「あ、でも今のところ図書委員会としての役目はきっちり果たしているつもりですよ?」 それは誰に対する弁明なのか。それとも彼への擁護なのか。 「それは、そうだろうね」 現時点で、図書委員会が機能していないなどという話は一切聞いていない。傍目には何ら変わりなく映っているのだろう。 いや、違う。見て見ぬ振りを、している? 某三年生の嘆願書。あのような現状が学園内に蔓延しているのだとすれば?それなら、下級生たちにとって、委員長不在の図書室であってもそれは「ああ、ここもそうなのか」と思われて終わりなのではないだろうか。 長次と名指しされた委員長ですでに二人。六年の委員長はあと四人。残りが天女に落ちていないという確信はない。いや、思い返してみれば、皆揃いも揃って天女様の素晴らしさを私に語っていたではないか。あの熱っぽさは共通のものだった。ということは、だ。 「駄目だ。絶対他の連中も同じ道を辿っているとしか思えなくなってきた……」 「あー…。そうかもしれませんねえ。先輩方、天女様の周りでよく見かけますし……」 困ったような顔で同意されてしまった。 「うわあ……。甘く見ていたかもしれない」 できることなら顔を覆い隠してしまいたかったけれど、腕に抱えた本がそれをさせてくれない。代わりに私は本の表紙に額をつけるようにして俯いた。 恥ずかしい。恥ずかしすぎる。 委員会を放り出してまで女一人に現を抜かしている級友たちも級友たちだが、すぐ傍にいながらその事態に気付かず放置していた私も私だ。 三郎は私が天女に関わる事が面白くないと言っていたが、そんな場合でもないだろうこれは。 「すまないね」 「先輩?」 「君には苦労をかけるかもしれないなあと思ってさ」 苦く笑う私に、雷蔵は表情を改めた。真摯な視線を感じながら顔を上げると、雷蔵へ向き直る。 「……頼りにしているよ」 「ッ。……はい」 「うん。頑張れー、図書委員長代理」 一瞬だけ驚いたように丸い目を大きく見開いて、それからこくりと頷く。 図書委員は彼に任せておけばとりあえず大丈夫だろう。そうせざるを得ない現状であると当の図書委員たちが感じているのなら、委員でないものが口を出すより幾分円滑に委員会活動が行えるはずだ。 最上級生としては、五年生にすべて押し付けているようで情けないが。 「あの、朔先輩」 「ん?何だい」 「先輩が、動かれるのですか?」 事態の収拾に、と続く言葉を雷蔵は飲み込んだようだった。 何だか私が気遣われているようで申し訳ない。ごめんよ、こんな六年生で。 「とりあえず、現状を把握してみるよ」 煮え切らないような私の返答にも、それでも雷蔵は安堵混じりの柔らかな笑みを浮かべた。 「ありがとうございます」 ほんの少しだけ、肩の力が抜けたような彼の微笑に胸の奥がざわついた。 長次、お前の後輩がこんな顔をしているよ。ねえどうしたのさ。何故こんな顔をさせて放り出しているのさ。 いや、少なくとも今現在雷蔵にそんな顔をさせているのは私でもあるのか。 すまないと謝罪を重ねることも卑怯な気がして、私は口を噤んだ。 まずは証言一つ。 さて、次なる『現実』はどんなものか。 図書室へと向けた足は腕に抱えた本以上に重かった。 現状把握に努めます。 (20110407) [目次] [しおりを挟む] ×
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