現状把握に努めます
さて、とりあえず現状把握に努めるとは言ったがどうしたものか。 うーん、と首を傾げるがそうすんなり名案は浮かばない。 食堂にでも行ってみればいいだろうか。そんなことを考えながら廊下を歩いていると、目の前から本が歩いてきた。 訂正。五年の制服が歩いてきた。 「…………雷蔵?」 「へ?あ、はい!朔先輩ですか!?」 「うん、そうなんだけど…。あ、ちょ、お前そんなに勢い良く動いたら」 「え?あー!」 「あー…」 ほら言わんこっちゃない。 頭を下げた拍子に、雷蔵が腕に抱えていた本や巻物がずざーっと見事に床へと滑り落ちる。 「やっちゃった…」 眉を下げて情けない顔で散らばった荷物を眺める雷蔵に苦笑し、私は屈みこんでそれを一つずつ拾い始める。 「すみません、先輩」 「いや構わないさ。ていうか、声を掛けた私にも責任はあるしねえ」 ぽんぽんと拾い集めた書物を雷蔵の腕に乗せ、私も数冊腕に抱える。 「じゃあ行こうか?図書室でいいのかな」 「え」 不思議そうに首を傾げていた雷蔵だったが、私がそう言って促せば意図するところを汲んだのだろう慌てて首を振った。 「いいですよ、先輩。僕が運びますから!」 「でもお前、前見えてなかったじゃないか」 「でも大丈夫ですってば」 「前から下級生が走ってきてぶつかったらどうするのさ」 さすがに、忍者のたまごであり五年にもなった雷蔵が避け切れないということはないだろうが、避けた拍子に今のような事態が起きて、何らかの事故に繋がらないとは言い難い。 危ないだろう?とやんわり告げれば雷蔵は迷う素振りを見せたが、今回は珍しく早々に結論を出した。 「…そうですね。先輩、申し訳ありませんが、手伝っていただいてよろしいですか?」 「素直なのはいいことだよ」 うんうんと頷き、ついでにもふもふした頭を撫でてやれば、雷蔵ははにかむように笑った。 「……先輩?」 思わず動きを止めた私に、雷蔵が小首を傾げる。 「実にけしからん、癒し系すぎるだろうお前」 「え、そうですか?何かすみません」 「あ、しまった心の声が漏れた」 雷蔵はぱちぱちと目を瞬かせ、それからぷっと吹き出した。 「す、すみません」 「そんなに腹を抱えて笑えるほど君のツボをつく一言だったかな」 あまりにケラケラ笑うものだから呆れたような一瞥を投げるが、雷蔵は「だって先輩らしいなあと思って」と何だかわかるようなわからないような理屈を返してきた。 私らしさって何だ。 思わず自分探しの旅にでも出なければならないような自問自答を繰り広げるところだったが、腕の中の本がずり落ちかけて我に返った。揺すり上げ抱えなおすと今更ながらに思ったことを口にしてみた。 [目次] [しおりを挟む] ×
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