助けてせんせい!

伏せた睫が影を作る。
それほど長くて何の意味があるのか。男なのに。
ぼんやりと仙蔵の顔を眺めながらそんなことを考える。
何だあれは。コイツは本当に男なのだろうか。
ばさばさの睫に陶器みたいに白い肌。紅牡丹色の唇と形のいい眉。櫛を入れても途中で引っかかるということを知らなさそうな髪の毛。
何なんだ本当に。どうしてこれで男なんだろう。

「……どうしてと言われても困るんだがな」
「え」

心の声に返答されて思わず目を瞬かせた。
仙蔵は眉をひそめてため息をつく。

「心の声がだだ漏れだったぞ。思いっきり口から」
「あれま」
「あれまってな…」

まったく、珍しく黙って聞いていると思ったら、と仙蔵がぼやく。

「どうせその様子だと私の話は聞いてなかったんだろう」
「そんなことないよ」

聞いていましたとも。

「途中までは」
「途中までか」

うん。
勢い良く頷くと、仙蔵は額を押さえながらできたばかりの焙烙火矢を投げて寄越す。もう何も言うまいと決めたように、話を元の方向へと修正にかかった。

「それをやるからとりあえず自分でもう一度作ってみろ」
「あのね、仙蔵さん」
「何だ」

真顔で仙蔵に向き直ると、相手は失礼な事に何故かげんなりとした顔をする。それはどういう意味だ仙蔵さん。

「どういう意味もこういう意味だ」

見たままだと仙蔵は疲れたように肩を落とした。

「まったく…この私にここまで言わせるのもお前くらいだ」
「それ褒めてないよね」
「当たり前だ。で?何だ」
「ああ。あのさ、見本があってちゃんとできるんなら、私この年で火器の追試なんて受けないと思う」
「頼むからそれで威張るな」
「あはははは」
「笑って誤魔化すな」

びしィっと手刀が決まった。
「い…ったいな!!」
「喧しい。騒ぐ力があるんなら、少しは集中しろ。まったく…お前よくここまで進級してこれたな」
「ちょっと仙ちゃん、もんじろと似たようなこと言わないでよー」

頭を擦りながらそう言えば、哀れみ以外の何物でもない視線が返される。ちょっと待て。どういう意味だ仙蔵ぱーとつー。

「誰彼構わずそう思われる辺り、本当に洒落にならないな」
「いや確かにそうなんだけどさー。まいっちゃうよねー。てゆーかあんたさらーっと『ぱーとつー』ってとこ流したよねー。ひっどいよねー。あっはっはっはっはー…はぅ!?」
「笑って誤魔化す場合か。自分を見つめろ冷静に!!」
「だからってあんた何回人の頭を…!?」

は?何?これ以上馬鹿になりようがないだろう…って鼻で笑うなよオイ。これでもアタクシ火器以外の成績いいのよ!?

「だから疑問なんだ。何で火器だけこうなんだ!?」
「…………………………さぁ?」

沈黙。そして疑問符の切り返しに、さすがの仙蔵もげんなりを通り越して脱力したらしい。怒鳴る気力もなさそうな作法委員長にさすがに少々申し訳なく思うけれどこればっかりは仕方ないじゃないか。

「……もういい。とりあえずお前は目の前の追試を乗り越えることだけに集中しろ。全神経を注いで全力で挑めその先のことは後で考えろ」
「りょーかーい」
「というか、このやり取りには激しく既視感を覚えるんだが気のせいか」
「やだなぁ仙ちゃん。つい先月もこんなんやったじゃない。ボケた?」
「覚えてるんだったら繰り返すな同じ過ちを」
「……いや、まぁそうなんだけどね。でもさー」
「何だ」
「でもさ、結局仙蔵は何度でも教えてくれるでしょー」
「…………まぁな」
「ね」

わざとらしくもあからさまなため息は、聞かなかったことにしてあげるよ。
ちょろっとにやけたら、気持ち悪いとまた手刀が決まりました。


(オイコラ!!私オンナノコ!!ちょっと私より綺麗だからって!!)(やかましい!!)


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