「は?」

こ、今度は何だ!慌てて首を巡らせると、視界に飛び込んできたのは黒の忍び装束。
黒?黒って……。

「何をしてるのかなー」

聞き覚えのありすぎるこの声は。

「父様!?」

「やあ、久しぶりー」

どこか気の抜ける声でもって私に答えたのは、紛れもない、タソガレドキ軍忍組頭雑渡昆奈門その人である。


何故ここに!?ていうか何故今いるんだこの人。
最近ちょくちょく忍び込んでくるけれど、何故今この時なのか。仕事はどうしたんだろう?

「また仕事放り出してきたんですか」
「仕事はちゃんとやってるよ」

軽い調子でそう言って、父様はひらひらと空いている手を振る。私を抱えたままで「それより」と声を一段低くした。

「これって何してるの」
「え、何って……」

何って、どこから説明するべきなのだろうか。えーと?

「えー…。……女装です」
「端折りすぎだろ!」

留三郎の突っ込みもどこ吹く風、父様は「へー女装」と頷く。

「おい、そこの馬鹿親子」
「失礼だな、馬鹿って!」

口を尖らせる私を父様はようやく腕から下ろした。そして改めてまじまじと見下ろしてくる。

「そう、女装」
「変ですか?」
「え?ちっとも」

可愛い可愛いと頭を撫でられ、何だかこそばゆい。

「お前は可愛いんだけどね」
「はい」
「余所の骨がくっつくのはまた別の話だと思うんだよ、父様は」
「骨?」

一体何の話か。首を傾げた私に、「わからなくってもいいよ」と父様。

「お前はそのままでいいよ」
「馬鹿な子程可愛いということでしょうか?」
「立花君だっけ?」

言うねえ。どこか挑発めいた仙蔵の声に対し、常と変らぬ声音で父様は返す。
あれ。

「ちょっと待って?私しれっと馬鹿にされてません!?ねえちょっと仙蔵!?」
「気のせいだろう」

いや気のせいではない。その嫣然たる笑みは何だ。ちくしょう、男のくせに美人なんだから!

「仙蔵なんか、女装しちゃえばいいのに!!」
「何だ、私と二人並んで紅屋でも覗くのか」
「何か比べられそうだから嫌だ!それならお団子食べたい!」
「おま……花より団子過ぎるだろそれ…」

疲れたような文次郎の呟きを聞きとがめ、「だからうちの子は可愛いんじゃないか」と父様は言ってのける。

「いや、あの、恥ずかしいんで止めてもらえませんか」

さすがに今のは恥ずかしい。

「そんなことより朔」
「は、はい」
「お前も軽々しく男の腕になんて抱かれてちゃ駄目だよ」
「はあ……」

よくわからない。

「相手が伊作君くらいならまだしも、七松君てね。駄目」

めッと童子を叱るように軽く鼻を摘ままれた。
え、伊作はよくて小平太が駄目って何でだ。ていうか、なんか軽く伊作に失礼な気がするんだけど気のせいだろうか。
ぼんやりその理由を考える私を放置して、周囲は勝手にぎゃんぎゃん騒ぐ。

あー、彼岸の母上様。こちらは何だかんだ、皆元気です。



「善法寺先輩」
「何だい鉢屋」
「朔先輩が昔の実習で誰にも声をかけられなかったのってまさか」
「うん?」
「まさか、とは思いますが、先輩方が周囲に張り付いておられたからでは……」
「ははははははは。さあ、どうだろうねえ」


(20130702)

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すずめ様リクエストで『何かしらの理由(罰ゲームなど)で女装(?)をせざるを得なくなった天が泣くヒロインが可愛く変身しちゃいました話。5・6年生とほのぼの』でした。本当にお待たせ致しました…!!そして調子に乗って書いているうちに妙に長くなってしまいました…(汗)その割に出番が均等ではないのであまり喋れていない子がいたりいなかったりしておりますが、楽しんでいただけるといいな…(最早願望形)素敵なリクエストありがとうございました!!


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