「……は?」

じょそう?じょそう……女装?

「女装!?何で!全然関係ないじゃん今回それ!!」
「いいだろう?お前の嫌いなもの、と言えばこれだろう」
「知ってるんだからいいじゃないさ!!やだよ、私はしないからね!!」

大体私が女装を嫌がる原因を知っているじゃないか。長い付き合いなんだから。
あれは四年の時だった。校外実習で私たちは女装したのだが、町行く人々が声を掛けるのは他の六人ばかりで、私はというと終いには合った視線を逸らされる始末。

「それって私の女装がよっぽど不味かったってことでしょ!?」

普段は男装で通しているとはいえ、一応私の性別は生物学上女である。別に女扱いして欲しいわけではないし、普段の自分の言動は決して女らしいと言えるものではないと自覚している。だがしかし、だ。それとこれとは話が違う。この一件は地味に私の中に傷を残していった。以来、私は極力女装を避けている。ていうかしない。
それをしろと!?

「だから罰ゲームなんだろう」

仙蔵はしれっと言ってのける。おい。

「まあ厩掃除よりマシじゃないか?」

仙蔵の提案に意表を突かれたらしく黙り込んでいた面々の中で、慰めなのか留三郎がおずおず口を挟む。

「いや厩掃除の方がマシだから」

知ってるだろうがお前。

「むしろ厩掃除を選ぶね私は」
「男らしいけどな……」

散々仙蔵に賛同してきただけに急に態度を変えられないらしい文次郎は、実に曖昧な合いの手を打った。おい。

「朔の女装……女装、か……」

ん?と膝の上に目を落とすと、小平太が思案するようにぶつぶつ呟いている。
嫌な予感しかしない。

「面白そうだな!」
「いやいや待って?私の拒否は無視かお前」

何とか言ってくれ、と後方部隊に支援を求めたが、片やある意味今回の事の元凶不運大王、片や図書室の沈黙の生き字引。

「…………」
「ちょ、朔!?何で僕らから無言で目を逸らすの!そりゃあんまり助けてあげられないけど!寧ろ無理かもしれないけど!」

何の弁護にもなっていない。ていうか始めから無理なこと前提かよ。おい!!
やっべえええええ!!やばいってこれ、何この四面楚歌!いや待てどこかに退路は残されているはずだ考えろ私。

あーとかうーとか言いながら視線をうろうろ彷徨わせる。もうこうなったら強硬手段しかないのだろうか。この面々を振り払って逃げ切るのは労力がいるから嫌なんだけどそんな場合ではない。入口に目を向けて、腰を浮かすタイミングを計っていた私の前で、それは勝手にすぱーん!!と音を立てて勢いよく開いた。

え、何?

「先輩!!」

勢いよく飛び込んできた五つの影は、私に引っ付いている小平太共々私を取り囲むようにぐるりと輪になった。
え、マジで何!?

「朔先輩!お話は聞かせていただきました!」
「え?」

勢い込んで口火を切ったのは、一つ年下の後輩、五年ろ組の鉢屋三郎である。

「女装なさるんですね!?ならば化粧は是非私に任せてください」
「は?」

学園きっての変装名人は、嬉々とした顔でそんなことを言う。

「先輩先輩。女装したら俺たちと町へ行きましょう!」
「何なら俺たちも女装しますし!」

キラキラした目できゃっきゃとはしゃぐのはい組の尾浜堪右衛門と久々知兵介で、その隣から「俺も!俺たちも!!」とろ組の竹谷八左衛門が不破雷蔵の手を握って一緒に挙手している。一生懸命なその姿は大型犬を思わせて可愛かった。可愛かったけれども。

「いや、あのさ……」

可愛い後輩たちの肩越しに、仙蔵の麗しい顔が見えた。
お前さては……!!
にやにやと勝ち誇った笑みを浮かべるその様が、隣の文次郎が不憫なものを見る顔をそっと逸らした姿が如実に物語っている。

「仕組んだな……!!」
「さて、何のことだか?」

仙蔵はしれっとしたものだ。だがこれが仙蔵の策であることは明白だった。いくら相手が五年と言えど、盗み聞きを見逃す男ではない。
そうそう、着物は私が見立ててやろう。何故か上から目線で下されたその宣言で、私のその後の運命は決定付けられたのである。


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