「ねえ、庄左ヱ門」
「ん?何?金吾」

授業後、委員会へ向かおうとしていると同じく委員会へ行くのだろう金吾が、後を追ってきて隣に並んだ。
わざわざ呼び止めたのだから何か話でもあるのだろうか。
そう思う僕の横を歩きながら、金吾は何か悩むように前と足下へ交互に視線をやっている。

「金吾?」

どうしたのさ。
珍しいその様子に思わず苦笑しながら訊ねると、金吾は意を決したように顔をあげた。僕を見るその目があまりに真摯なもので、ついつい僕は足を止めてしまった。

「あのさ、庄左ヱ門」
「う、うん」
「庄左ヱ門は、蓮咲寺先輩を知ってる?」
「…………へ?」

どんな時でも常に冷静が売りの自分らしくない間抜けな声が飛び出した。
そんな僕にじれたように、金吾は「蓮咲寺先輩、知ってる?」と繰り返す。

「え、えっと、そりゃ知ってるけど」

知っているも何も、蓮咲寺先輩は僕の所属する学級委員長委員会委員長だ。顔を合わせる機会は勿論、しょっちゅう直接話している。
そう答えると、金吾はホッとしたような困ったような曖昧な表情をした。

「それがどうかした?」
「うん、あのさ。蓮咲寺先輩ってどんな人?」
「どんな…って…うーん…?」

どんな人と言われても何だか表現が難しい。蓮咲寺先輩は、委員会で会うといつもにこにこ笑っておやつをくれるかなあ。あと、僕や彦四郎の頭を撫でてくれる。

「…………へ、へー」
「でもそう言えば、まだまだ知らないことがいっぱいある気がする。……金吾?どうしたの」
「あー…。実はさ、滝夜叉丸先輩が言ってたんだ」
「滝夜叉丸先輩?」

金吾の口から出たのはうぬぼれやの四年生の先輩の名だった。それでも委員会となれば暴君と評判の委員長と下級生の間に立ち、時には助け舟も出してくれるなかなか良い先輩らしい。
あまり皆認めたがらないみたいだけど。

「委員長の暴走を止められるのは、最早蓮咲寺先輩しかいない!……って」
「そう言えば、前に鉢屋先輩が言っていたけれど、蓮咲寺先輩は七松先輩と仲がいいらしいよ」

でもそれがどうしたの?
単に蓮咲寺先輩に興味を持ったから尋ねてきた、というには暗い金吾の表情に、僕は首を傾げた。

「蓮咲寺先輩は下級生、特に一年生には甘いから、僕に委員長の暴走を止めるように頼んでくれ…って」

確かに、蓮咲寺先輩は後輩に甘いと思う。滝夜叉丸先輩の言葉にも一理あるなあと頷くが「納得しないでよ!」と金吾が叫んだ。

「え、どうしたのさ」
「だって六年だよ。話したこともないのにいきなりそんなこと頼めないよ」
「だから僕に先輩のこと訊いたの?」
「そうだよ……なのに庄ちゃんたらさ、知らないことがいっぱいあるなんて言うし」

はああああ、と深々と溜息を吐き、金吾は肩を落とした。

「ご、ごめん!まさかそんな話だとは思わないしさ」
「僕には今、体育委員の命運が掛かってるんだよ」

勝手に掛けられたと言った方が正しい気がしたけれど、それは黙っておいた。ろ組のような影すら背負い始めた金吾には追い討ちにしかならない気がする。

「あ、そうだ!じゃあこうしない?」
「え?」
「は組の皆にも協力してもらってさ、蓮咲寺先輩を観察するんだ」
「観察?」

金吾は何それと不思議そうな顔をする。

「蓮咲寺先輩を皆で順番に観察して、日誌をつけるんだ。そうしたら色んな視点から見れるし、先輩がどんな人かよくわかるんじゃないかな」

名案だと思わない?と僕が言えば、少しだけ考える素振りを見せた金吾が顔を輝かせて頷いた。

「うん!それなら先輩のこともわかるし、七松先輩のことも頼めるようになるかもしれない!」
「でしょう?」

僕も先輩のことをもっと知れるし、忍者としての勉強にもなるんじゃないかな。
そう思うと、何だかわくわくしてきた。
え、他の皆の協力?大丈夫、だっては組の団結力はすごいんですよ?

「……で、庄左ヱ門は私のところにいるというわけか」
「ええ、他の先輩のお話を聞くことも重要でしょう?」

そう言うと、本日も同級生の不破雷蔵先輩に変装中の五年ろ組学級委員長・鉢屋三郎先輩は楽しそうに笑った。

「いいよ。協力してやろう。その代わり、その観察日誌、完成したら私にも見せてくれないか」
「わかりました」

そうして僕らの蓮咲寺先輩観察の日々は始まった。




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