「くくちくん」 声に出して初めて、頬っぺたあたりに熱が集まっていくのがわかった。 ただそれだけなのに、心臓がバクバクと跳ねている。 一体どうしたことなのか、自分でもよくわからないまま、私はもう一度「くくちくん」と口にした。 まるで呪文のように。 久々知くんの、黒い髪を思い出した。毛先が少しくるんとしているけれど、触るときっと気持ちがいいんだろうなと思う、つやつやした黒い髪。 それから、長いきれいな指先。 男の子の手に、きれいなというのは可笑しいだろうか。でも、何気ない拍子に目につくその手は、きれいだ。 久々知くんは、目だってぱっちりとしていて大きいし、睫毛も長い。 久々知くんは、きれいだ。 あのきれいな人が好きになるのはどんな人なんだろう? どんな人が隣に並ぶんだろう? 心臓が痛いほどに音をたてる。 私はその音に耳を澄まし、そうしてやっぱり繰り返すのだ。 「くくちくん」と。 (20140816:くくちくん、と言いたいだけ) |