兵助くんは、さっきからずっと熱心にカレンダーを眺めている。
かと思えば、物憂げなため息。

長いまつげが影を落とす、その横顔は憂いを帯びていて、こんなことを考えるのは不謹慎かもしれないけどとても綺麗。

でも。

「兵助くん」
「……」
「兵助くん」
「……」
「兵助くん」
「……え?」

呼んだ?と振り返ったのは三度目の正直かな?
ちょっと違うかな。
何て考えながら、「三回くらい呼んでる」と答えると、兵助くんは慌てたように「え!?」と短く叫んだ。

珍しいなあ。

「ごめん、気付かなかった」

兵助くんが心底すまなさそうに眉を下げるから、「いいよ」と首を振る。
構ってほしいな、とちょっぴり思ってたのは内緒。
それより気になるのはね。

「どうしたの?ため息ついて悩み事?」

私でよければ話してね。
役に立つかわからないけど、頑張るよ。

兵助くんは表情を和らげて笑った。

「ありがとう」

実は。
実は?
兵助くんの笑顔と、続いた真剣な声に胸がドキドキする。

「実は今日は豆腐の日なんだ」
「……え?」

私は思わず目をしばたかせる。
え?豆腐の日?

「俺としたことが、うっかりしてた。前々からこの日は豆腐を作る予定を立ててたのに…」
「そ、そうなんだ…」

ごめん、兵助くん。
私じゃ手に余るかもしれない。

兵助くんは、時々不思議。

黙った私を余所に、このあと彼は小一時間、後悔と豆腐への熱い思いを語っていた。



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