彼の人は詩人か永遠か

 歩くたびに骨が体が軋み、今にも血管がはちきれて血が吹き出すのではとあり得ない考えさえ一瞬脳裏によぎった。
 踏みしめる固い荒野の大地にも痛みを感じるがそれでも足を踏み出す。ここで足を止めたら最後、痛みに負けて歩くことさえできなくなるかもしれない。先ほどまで闊歩していた魔物がいないのは幸いか、はたまた弱ったマルチェロが崩れ落ちるのを岩陰で舌なめずりしながら待っているのか。

 宛てはない。目的もない。強いて言えば目的を今さっき達成したところだーー驚いたような、どこか安堵したようなあの腹違いの弟の瞳は初めて出会ったあの日のままであった。そんなことを痛みの合間に思い出してマルチェロは舌打ちをする。
 神殿へと進むあの一行の後ろを付いていきながら垣間見た弟の顔はどこか満ち足りた顔をしていた。追い出してやった弟はそれをきっかけに自分の場所と仲間を得たのだ。対して自分はどうだ?すべてを得るためにやってきて、自分ですべて壊してしまったーーどこまでも、マルチェロが得られなかったものを簡単に手に入れる弟。今、荒野にはマルチェロたった一人である。

 うまく足を上げられずに、小さな石に躓いて固い大地にそのまま倒れこんだ。そのせいで全身を打ったマルチェロは衝撃に思わず呻く。遠くから魔物の声が聞こえる。獲物を狩る絶好のチャンスにどうやら出てきたらしい。そんな事をどこか他人事のように思いながらマルチェロは顔を横に向けてどこまでも広がる荒野をぼんやり見ていた。
 どこで間違ったのだろう。ただ欲しかった。自分が自分でいられる場所、求められる場所が。

 (今更考えても無駄か)

 思い出したのは、真っ黒な髪。彼女がそれだったかもしれない。失ってばかりいた人生の中で、唯一彼女だけが得たものだった。
 最後に見たのは大聖堂の瓦礫と共に大きな闇へと消えていく姿だ。
 ふっと目の前に黒猫が音もなく現れた。

 「・・・・ユエ、お前か」

 猫はじっとこちらを見つめた後に、現れた時のように音もなく姿を変える。目の前に現れた見慣れた白い足にマルチェロは目を閉じると自嘲気味に笑う。その足が蜃気楼のようにゆらゆらと見えるのは目が霞んでいるからか、光の加減からかーー別の問題からか。

 「・・・・まだついてくる気か」
 「・・約束したわ、一緒に何処までもって」
 「・・そうだったな」

 その言葉に心底安堵して、マルチェロは体の力を抜く。体が冷えていくが、悪くはない。ゆっくりと意識も混濁していく。
 不意に、投げ出した手に温かいものが重なった気がした。彼女が側にいる、おそらくこれからも。

 「・・・・共に堕ちてくれ」
 「・・・・ええ、どこまでも」




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