呪葬 | ナノ

ちょうど頭の上で赤と青が混ざり合って、そこを黒いビニール袋鳥がバサバサと飛んでいった。あーあ。あ、しか出なくなった喉の奥が痛くて何度も唾を飲み込んだ。あつい。
踏切の隣にある廃墟のすぐ傍には、僕の髪と同じ色の花が十ほど咲いている。上を向いた花を誰かと重ね合わせて、首をへし折った(容易い)。その誰かは、擦り付けるようにとんちんかんな理由を付けて何処かへ去って行った。もう随分と前の話だ。電車が去るよりも速く、風が通り過ぎるよりも遅い、あれはそんな出来事だった。訃報を聞かされただけの僕らには、掴んでも掴みきれない苦さだけが残った。
地上から壁を這う蔦に閉ざされた廃墟の窓からは、まだ誰かが顔を出しそうだ。辻褄の合わない思考に風も呆れ果てたのか至極生暖かい。

「もう少し楽しそうにして下さいよ」

踏切のサイレンが鳴り止んで出来た広い空間にぽつり、チャンスウの声が取り残された。その声は、ここに居るのは僕だけだと錯覚してしまいそうなくらい小さく聞こえた。僕は、勝手に一人になりたかった。僕は、勝手に彼を殺してしまいたかった。

「なんなら電車にひかれてあげましょうか」
「僕が背中を押してあげるよ」

サイレンが鳴り始めた。電線に群がったカラスが散る。一番線路側にある向日葵だけが、呪われたように俯いていた。


呪葬


企画:葬式 提出
素敵な企画ありがとうございました。