神楽と新八は事実上、銀時に救われた身だ。
彼がいたから、彼と出会えたからこそ、二人は年相応に笑う術を知った。

目を閉じると、まるで昨日の出来事のように鮮明に思い出せる。
新八は破落戸に絡まれていたところを銀時に助けてもらった。
おそらく、生涯忘れることはないだろうあの日の記憶。

―――僕は確かにあの時、“この人のようになりたい”と思った。

紆余曲折を経て万事屋として彼のもとで働けるようになり、彼の人となりを知り、あまりの日々のマダオ(まるでダメなオトナ)っぷりに愛想を尽かしそうになったけど。
それでも。

それでも銀さんは、僕の憧れだった。

「なのに、こんなのってないよ……」

新八は誰もいなくなった部屋で一人拳を握り締める。

銀時は確かにマダオだ。
従業員である新八たちにまともに給料を払ったことなんて片手で数えるくらいしかないし、日々のパチンコ通いはもちろん、下手をすればニートのような自堕落な生活を送っていた。

けれど、彼は無責任に僕らを見捨てるようなことはしない。

銀時が黙って新八たちの前から姿を消す時は、決まって有事の際だけだ。
自分以外の人を巻き込まないように、重荷をすべてその背中に背負い込んで、一人で解決しようとするのだ。

だから今回のことも、何か理由があるのだと新八は思いたかった。

そうだ。そう、思い込みたかった。

新八は気づいていた。
銀時が姿を消したのは、過去の一件のような理由でないことに。

「だって、それならあんな状態の神楽ちゃんを放っておくはずがない……」

新八の脳裏に過ぎるのは、日に日に物静かになってゆく少女の姿。

青い瞳を伏せ、愁いを帯びた表情ばかりになってしまった彼女は、まるで出会ったばかりの頃のようで。
握り締めた拳から血が滲む。

「僕なら、僕だったら、神楽ちゃんに悲しい思いなんて絶対にさせないのに――!」

主を失ったその部屋で、少年の悲痛な声が響いた。

新八はそこで気がつく。
自分は何を言ってるのだろう、と。

“僕だったら”?

自分が、銀時の代わりにでもなろうと言うのか。

憧れた銀さんに?

違う。
そうじゃない。
自分は、銀時になり代わりたいわけじゃない。

ただ、心が叫んでるのだ。
神楽に慕われているのが、もしも自分であれば、と。

本当に、何を馬鹿なことを言ってるのか、自分でも分からなくなる。

「ねえ神楽ちゃん……。もしきみに“僕がいるから大丈夫だよ”なんて言ったら、きみはどんな反応をするかな?」

“寝言は寝て言え、この駄メガネが”

きっと、お前なんかじゃ銀時の足元にも及ばないと、そう足蹴にするんだろうね。



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