05

「一つだけ教えてくれ。…一族滅亡の理由を」

「滅亡の理由なら、かなりの奴が知ってる筈だ。アンタはそんなことも知らねぇのか」

馬鹿にするような言い方にニコリと微笑みを返す。先のナルトとやり取りしていたサスケの表情を見て心も穏やかになる。

「…あぁ、実はそうなんだ」

「木ノ葉にクーデターを企んだからその制裁を受けた。オレは幼かったし、クーデターに参加してなかったから免れたけどな」

「…そうか」

聞けた答えは存外あっさりしたものだった。そして自分の役目を里が負うことでこんなにも変わるのかと思うと可笑しさが込み上げてくる。

「ありがとう。…辛い記憶を思い出させて悪かったな」

「さっきも言ったろ。幼かったからよく覚えてねぇよ。むしろ企んでたことに驚いてる…それよりナルトは……」

気持ち良さそうに寝ているナルトに視線を向ける。そっとナルトを抱えて部屋を出ようとしたイタチが足を止め、サスケを振り返る。

「どうして…入院を?」

あぁ、と頷く調子を聞いて少しはサスケと打ち解けられたような気がした。

「オレもよく分からねぇ。家に近い森に居たが、いつの間にか倒れたみたいで…気がついたらここにいた」

「なら怪我はないんだな?」

何故かは分からないが必死なイタチの問い掛けに、気圧され気味に「あぁ」と短く答えた。

「そうか。それは良かった」

何で初対面の奴にこんなにも心配されるのか判くて首を傾げていると、「じゃあな」と嬉しそうに笑って先の奴が去った。

「意味わかんねぇ…」

ぽつりと呟く言葉は何も意味を成さないことを分かっていながらも、声に出さずにはいられなかった。




(…意味が判らない)

怪我がないとしたら何故サスケは記憶を失ったというのだろう。密かに頭部を打撲したのではと思っていたからだ。
何かの術なのだろうか。それとも薬なのだろうか…。

(しかし何故オレだけなのだろう)

最大の疑問点である。故意に誰かがやったとしたらその人に一体何の利点があるというのだろう。やはり偶然なのか。
考えていると病室の前だ。イタチは自分の病室を開けて中に入る。すっと中に入って、ナルトを寝台に寝かせる。

(…何のために)

全く、考えても分からないことばかりだ。苛立たしげに髪を掻き上げると、眠るナルトに視線がとまる。
思い出すのはあの時のこと。サスケと対峙する前に森でナルトと会った。

―木ノ葉は守る!そんでもってサスケは殺さず止める!

それはどちらも自分が守ってきたもの。それにいとも容易く理想を発したナルト。どちらかしか選べないというのに。
しかし叶わないと知りながら、ナルトに正論を伝えながらも、自分もそれができればと望んでいた。そしてナルトに託してみたくなったのだ。彼なら成し遂げられる…と。

ナルトの頬に指先で触れる。起きる気配すら感じない。むにゃむにゃと何か言いながら笑って寝ている。その姿に自然と微笑みがこぼれる。

「…やはり、君に託して良かった」

故にサスケも自分もここに居る。そう思えてならなかった。
それとサスケが皆と元通りの関係を築けられたのも、ナルトが居たからだ。彼はサスケを本当に大切に思ってくれている。

「…このままの方がサスケにとって幸せなのかもしれない」

ナルトの頬から指を離すと同時に、ナルトがうっすらと目を開いた。

「…何言ってんだよ、兄ちゃん」

どうやら先の言葉を聞いてしまったらしい。イタチはナルトを見て大きく目を瞬かせた。
頬から離した手を取ってナルトは叫んだ。その声は下のサスケにも聞こえているんじゃないかと思う程大きい。

「兄ちゃんは本当にそれで良いと思ってんのか!?サスケはあんなに兄ちゃんのことばっかだったんだぞ!本当に兄ちゃんが大切で大切でしょうがなかったんだ!なのに何で…」

イタチは小さく息を吐いた。あまり本音を話すのは好きじゃない。しかし自分が言ってしまったのも事実だ。

「…言葉通りの意味だ」

「どういうことだってばよ?」

それに話すのはナルトだからという理由もあるかもしれない。イタチはそう思い微笑むが、無論イタチが微笑む理由をナルトは知らない。
イタチは窓に近付きそっと横に開けた。爽やかな風がイタチの髪をゆったりとなびかせる。絵になるようなその光景に、ナルトは少しでも見惚れていた。

「オレは昔からサスケを苦しめてばかりだった。サスケのために出来ることなど何一つなかった」

静かな風が言葉の終わりを告げるように止まる。切なげに目を伏せるイタチをナルトは黙って見守るしか出来なかった。

「あの夜の出来事をサスケは覚えていない。一族のしがらみに囚われることなく、仲間と共に里で暮らせる…辛い記憶なしにそれが成し得るのならそれ以上幸せなことはない」

「つまり…それって…」

イタチが振り返り、寝台の上のナルトを見つめる。自然ナルトと目を合わせることになる。
暫しの沈黙が長く感じられた。風はイタチの言葉を待つように止んだままだ。

「オレを知らないままの方がサスケにとって幸せだろう」

途端ナルトがイタチの頬を殴った。移動の速さも上がったなと殴られたというのにイタチはそんなことを考えていた。

「…本気かよ、兄ちゃん」

その口調には驚きと怒りが含まれていたが、どこか悲しみも込められていた。イタチは無言でナルトを見つめた。

「何でそうやって無理ばっかすんだよ!どうしてサスケの傍に居てやろうとしないんだよ!!」

ナルトの目は潤んでいた。イタチは見るに堪えられなくて視線を逸らした。殴った時に倒れたイタチは既に上半身を起こしている。

「サスケに生きてほしい…真実を遠ざけてただそれだけを願った。今となってはそれが本当に良かったのかなど判るわけもない。しかし時々思うんだ…それはただサスケを苦しめることになっただけではと」

本心からの言葉だとナルトは直感で感じた。一族、因縁…どれもナルトには関わりのないことばかりだ。だがナルトにも1つだけ思うことがあった。

―もし。

「…オレは」

―そんなもの全てなかったら。

「…オレはサスケの兄失格だ」

―2人共幸せに暮らせただろう。

イタチの微笑みに心が痛くなる。無意識にナルトはイタチを抱きしめていた。

「ナ…ルト君?」

「サスケも馬鹿だよなぁ…あんなに兄ちゃんばっか言ってたのによ、忘れちまうなんて」

ナルトはイタチを抱きしめる力を強くした。

「今、兄ちゃんがすっげー辛いのは分かったってばよ」

イタチは何やら嫌な予感がした。まさかナルトは違った解釈をしてしまったんじゃないかと。

「ナルト君…まさか…」

「サスケの野郎もガツンと言えば直るだろ!待ってろ、オレが今元通りにしてやるから!」

やはりそうだ。おそらくナルトに余計な心配をさせてしまったに違いない。サスケと激しい喧嘩になるのは目に見えている。何としてでも止めさせなければ。
しかしナルトの行動は早く、すぐに病室から出ていく。

「ナルト君!待っ……」

途端呼吸が苦しくなる。むせ返るような感覚がしたと思えば床に広がる大量の赤。そういえば起きてから薬を飲んでいない。家にあるので当然のことだが。
ぐらりと視界が揺れるも、意識はナルトを追いかけなければ、と伝える。何とか体を動かすが思うようにままならない。
イタチはそのまま意識を失った。





















ナルトはこの長編の話の中でかなり重要なポジションです。
そして兄弟を繋ぐのはナルトなんじゃないかという私自身の解釈の意味も含まれています。
兄さんは小話多考な人である設定でずんどこ進んでいきます。

2011/7/17

長々しててすいません。進展ないなぁー
今回ナルイタです。いやまたありますけど。ナルトはサスケが兄さんを大切にしていることも、兄さんがサスケを大切にしていることも知ってます。
というか本誌で兄さんが「ナルト」と呼び捨てにしてますが!呼び捨てにしたいけど書きはじめが君だったからやむなくそのままにしてます。
今度ナルイタ書くなら呼び捨てがいいな!

2011/07/31

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