「倖」

「星の王子さま」を題材にしたお話。
mutsumix様の企画に出したものです。
設定では戦争も全て終わった後。



「兄さん、これあげる」

そう言って渡したのは花の種。たった一粒のその種を兄は不思議そうにそっと指先で摘む。

「何の種だ?」

「…知らない」

ちらりと見たイタチは予想通りの表情。笑顔で言っても答えは答え、驚くに決まっている。だが次に発した言葉は予想外だった。「何で知らない」とか「どうしたんだこの種」だと思ったのに。

「ありがとう。大切にする」

嬉しかった。
大切にしてくれること、頭を撫でてくれたこともあるが、何より兄が笑顔で受け取ってくれたことが一番嬉しかった。





ある朝のこと。

「おはよう、兄さん」

目を擦りながら兄の部屋の襖を開ける。と、いつもよりも眩しい日光のせいで更に目を細める。

「おはよう、サスケ」

眩しくてうっすらとしか確認出来ないが、声音からして大分前に起きていたのだろう。すぐに任務がある兄のことだ、もしかしたら寝ていないのかもしれない。

「兄さん何して…」

意識が起きたところでイタチの姿をはっきりと確認する。窓際の鉢植えに目が留まるのも時間の問題だった。

「これって…」

「あぁ、花が咲いたんだ」

そこには薄紅色に染まった花が顔をこちらに向けていた。まるで「初めまして」とお辞儀をしているように垂れている花は、サスケも何度か目にした花であった。だが、名前は知らない。

「兄さん、この花なあに?」

「さあな」

そう言うイタチの口ぶりは知っているような感じがした。知ってるのにわざと教えてくれないんじゃないかと思い、少し頬を膨らませる。

「…教えてくれたっていいだろ」

サスケの言わんとしていることが分かったように納得の表情を浮かべ、クスリと笑う。

「知らないさ。それに別に知らなくてもいいことだ」

「え!?何それ!どういうこと!?」

身を乗り出して尋ねるも、イタチはなかなか答えない。花をそっと手で触れる。ふわりと愛しく包み込むその手つきはまるで母親が子供に向ける慈愛のようであった。

「これはこの世でたった一輪しかない花だからだ。」





あのとき、兄が何を言おうとしているのか判らなかった。あれから何年も経った今、サスケは既に花の名前を知っている。あれは丁度秋に美しい花を咲かす。花畑にも行ったことがあるくらいだ。

「たった一輪しかない…か」

同じ花は数え切れないくらいに沢山ある。なのにどうして一輪と言ったのか。そしてその後に続けた兄の言葉を思い返す。

「この花はどんな花よりも美しい花だ。例え枯れてしまったとしてもそれは変わらない」

サスケはそっと持っていた一輪の花を墓石に供えた。その花はよく知っている花で、兄が大切にしてくれた花だった。
自分の育てた花からこうして一輪だけ摘んで墓に供えるのはサスケの日課になっていた。

空を見上げると満天の星が出ていた。一際光り輝く満月を見てふと思い出すのはあの夜のこと。

「…今ならアンタが言いたかったことが分かる気がするよ…兄さん」

その言葉に応えるようにふわりと柔らかい風が過ぎていった。
少し微笑んでサスケは帰路につく。
―あの花が待つ家へ。




















かなり内容の理解が困難では…。と思います。
私は「小さな旅行者」という曲を聞きながら作りました。(題名は英語です)
悲しく暗い方にいった原作とはかなりかけ離れたものになりました(笑)

2011/7/24

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