01

「兄さんみてみて!!」

サスケはせわしなく家に帰ってきて、イタチに駆け寄り、閉じていた手をぱっと広げてみせた。
そこには黒の斑点のついた小さな虫が一匹。

「これはてんとう虫だな。前に見たことがある」

イタチは病のせいで外出はできない。だからイタチの「見たことがある」は全て屋敷にある本のことである。

屋敷の亭主はサスケとイタチの父、フガク。サスケはまだ幼いからという理由で外出の範囲は狭いが、イタチに関しては外へも出られない。
幼く知識がないサスケは目についたものを持ち帰って、イタチに実物を見せ、本の知識を教えてもらうことが二人の遊びとなっていた。

「てんとう虫のてんとうとは太陽のことなんだ」
「太陽なの?太陽に全然似てないけど」
「こうして指先を立ててみろ」

イタチに言われた通りに人差し指を立てる。指を上るてんとう虫の動きがくすぐったい。

「あっ」

我慢して待っていると、てんとう虫が羽を広げて飛んだ。サスケが開け放ったままの扉を出て。

「…本当に太陽に向かって飛んでっちゃった」

飛んでいったのは一瞬のこと。それにあっけにとられているサスケは口を開けたまま、てんとう虫が飛んでいった扉を見ている。

「…すまないサスケ。てんとう虫飛んでいってしまった」

「別にいいよ!!太陽に向かってくの見れたし、てんとう虫を兄さんに見せられたし」

ニッコリと嬉しそうに笑うサスケ。そんなサスケに、ふと疑問に思ったことを口にしてみる。

「太陽って外に出ても眩しいものなのか?」

イタチは窓から差し込む明かりを見るしかできない。昼間の、今のような光も窓からしか見れないからだ。

「眩しいよ!!」

「どのくらい?」

「えーっと…とっても!!」

普段の二人のやり取りでも不可能なことはあった。水面に映る太陽や海のさざ波、風の涼しさなど、サスケは持ってくること不可能、説明もし難い。それがサスケには歯痒かった。

「兄さん、待ってて!また探してくるから!!」

イタチが何か言いかけようとする前にサスケは外に出た。



イタチは本でどんなものかは知っている。ただ本だけでは実際の感触が掴めない。サスケはもう少し遠い場所へ行ってみようと決意する。

「もっと兄さんが本でも見たことのないようなものを見つけてやる!!」

公園を過ぎる。その公園には兄弟が遊びにきている。家が近くなのだろう、サスケはよくこの兄弟を見かける。
サスケもイタチとああして遊びたいというのが本音だった。一緒に出かけて、この公園に来たら何して遊ぼうかな、などとよく考えてしまう。だが現実には叶わないこと。
サスケは首を横に振って思考を止めた。


「おーいサスケ!!」

ふと見るとナルトが手を振ってこっちに駆けてくる。ナルトとは通う学校が昔から一緒で、今のクラスメイトである。

「なあ、向こうの森あるだろ?あそこってばリスがいるんだって!!」

森が少し行った先にあるのは知っている。その森はさほど深くはないが、道が少し入り組んでいる。太陽はほんの少し西に傾いてはいるものの、まだ橙に染まってはいない。
それにリスなんて滅多に見られるものじゃない。イタチに教えてやりたい。リスはこんなにすばしっこくて、なかなか写真が撮れないから本はすごいねって。

「…ナルト、教えてくれてサンキューな」

そのまま森へと駆け出す背中をナルトは見送るしか出来なかった。あっという間にその背は見えなくなってしまったのだから。

「…っていうのは嘘だってばよ……」

最後に言おうとしていた言葉をぽつんと呟くことしかできなかった。





















サスケ8歳、イタチ13歳設定。
ナルトはキバがチョウジに言ったことを真似しました。(チョウジはその後来たシカマルと駄菓子屋行ったためひっかからなかった)

2011/6/22

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