05 イタチはゆっくりと目を覚ます。 とっさに思いついた嘘でなんとか切り抜けられたが、やはり時間の問題だ。 記憶があると気づかれた時点でサスケに全てが知られてしまう。それだけは避けねばならない。 居間を覗けばサスケが何やらカチャカチャと食器を並べている。座卓の上には握り飯や味噌汁など、懐かしい食事が用意されていた。 「起きたか。朝食できてるからさっさと食え」 イタチは目を瞬かせた。昔は母がいたし、当時のサスケは幼かった。サスケの作った食事は初めてだった。 自分が里を抜けてからどうしてるのかとずっと心配だったが、やはり成長している。 ただ、その成長を傍で見守ることができないのが辛い。 「美味しい」 それ以上考えたら泣き出してしまいそうで、必死に溢れそうになる思いを押し込める。 サスケはそうか、と素っ気なく返して向かいに座り忍具の手入れを始める。 「何をするんだ?」 「ん?ああ、これから任務があるからな」 サスケは下忍だからランクはDやCといったところだろう。 「懐かしいな」 「え? どういうことだ?」 「あ、いや……ただ最近、風邪で休んでたからあまり任務に行けてなくて…」 「そうだったな……兄さんは体調崩しやすかったからよく風邪で寝込んでたっけ」 それでも幼い自分は手裏剣術や忍術を教えてもらいたくて、寝ている兄を起こしてはせがんでいた。イタチも断ることはせずに出ようとするから、その度母に叱られていた。 「……フフ、懐かしい」 その思い出も、自分の呼び方も。 「……なあ、」 「ん? どうした?サスケ」 「……一緒に行かねえか、任務」 一瞬イタチは箸を落としそうになる。あまり目立った動きはしないでおきたい。 だが、運良く自分の姿は下忍の年齢だし、サスケの任務の様子も見てみたい。少しくらいならいいだろう。 「行ってもいいが……一つ条件がある」 「条件?」 「オレのことはイタチって呼ぶこと」 今の外見からすればサスケの方が年上だ。年下の自分を兄と呼んでいると怪しまれる。それでなくとも、自分がここにいる時点で怪しいというのに。 先ほどから、サスケは石になったように固まっている。顔は真っ赤だ。 「イ……イタ、イタ……チ」 「ぎこちないですよ、兄上」 自分が兄という立場に緊張しているのか、兄と呼んでやると耳まで赤く染まる。こんな調子で大丈夫なのだろうかと苦笑した。 「そ、そろそろ出る時間だ。行くぞ」 早歩きで進むサスケだが、歩幅が違いすぎてイタチは走るようにサスケの少し後を追う。 見かねたサスケが無言でイタチの手を引いた。いつも自分がしていたことでだからサスケにされるのは、くすぐったいような気持ちになった。 「あ、サスケ君!」 サクラがいつもの調子でサスケにくっつく。先ほどのことがあったから何とも接しにくい。 「ねえ、今度修行付き合ってほしいんだけど…」 「サクラ、その、さっきは……」 「え? さっきって何のこと?」 忘れている? それは気絶のショックとは思えない。ちらりとイタチに視線をやると、にこにこと微笑んでいる。 まさか、とサスケは瞠目した。自分がイタチの年の頃は手裏剣術もろくに出来なくて、必死で豪火球を覚えていたはずだ。もうその年で記憶を消せる幻術を習得しているのか。 「あれ? 誰なのこの子」 「あ、いや、サクラ……こいつは」 「うちはイタチって言います」 満面の気色で言うイタチにサスケは驚く。だがサクラはひょいとイタチを抱き上げて頬ずりする。 「へぇーイタチ君かぁ……可愛い! サスケ君の弟?」 「ま、まあな……」 「おいおい、サスケ。任務に子ども連れてくるなんて危ねえだろ!」 いつの間にか話を聞いていたナルトが怒鳴る。あの子は、とイタチは目を瞬かせた。幼い頃は見かけていたが、大きくなったものだ。 「イタチ君見てよ。二人ともすぐケンカするのよ」 サクラが言うように、いつの間にか言い合いに発展している。良いライバル関係だな、と嬉しそうに微笑んだ。 「でもここの班をまとめるのは大変そうですね」 「ほんっとに! 先生だっていっつも遅刻するのよ」 「先生も……?」 「今酷いこと言わなかった? 先生もいつも遅刻ってわけじゃあ……」 「でもやっぱり遅刻じゃないですか!」 聞き慣れた声にまさかと思い振り返ると、見知った人物の見開かれた片目と視線が合う。 「……っ!」 しまった、と思ったときにはもう遅い。 慌てて逃げようとしたが、結った後ろ髪を掴まれ、引きづられるようにしてカカシの元にき寄せられる。 「お前……もしかして……」 「カカシ! イタチから手を離せ」 サスケの言葉にカカシは面食らう。その隙にカカシの手をすんなりと払いのけ、イタチを自分の後ろに隠した。 「いきなりどうしたんだってばよ、カカシ先生ってばイタチのこと知ってんの?」 「んー、いや、知ってるというかなんというか……」 「イタチってばサスケの弟なんだぜ!オレってば初めて知った」 「ふーん、弟ねえ……。ま、とりあえず任務始めるか」 任務と聞いてはしゃぐナルトのお陰でさっきまでの重い空気だったものが一瞬で明るくなる。 だが、イタチは「弟」と聞いた時のマスクで覆われている口元が笑ったように見えたのは気のせいとは思えなかった。 次 更新も大分と停滞していてすいませんです。 前回の更新から半年以上経ってしまいました。 この話は兄さんよりサスケの気持ちの変化を書くのが楽しいです!わっほい! 2013/03/14 ←top |