前兆

翌朝、ナルトはサスケを連れて巾着を落とした場所に来ていた。

「この辺りだってばよ!」

昨日の記憶だからしっかりしている、と自慢げに言う姿にサスケは眉間に皺を寄せた。宿からはあまり離れていないが、ここは大通り。朝にもかかわらず人々が忙しなく押しのけるように道をかき分けてあちらこちらと右往左往している。この中で会うことはおろか、人に聞き込みも簡単にできる気がしない。せめてサクラのような情報網に優れた者さえいてくれれば、とないものねだりしたくなる。

「とりあえず…手分けしてこの辺りを探るか」

おう!任せとけ!!と威勢良く発して人波に飲まれて消えていく背に不安を覚えつつも、自分も気持ちを切り替えてナルトと正反対の方向へ進む。
歩く中、ふとある考えが浮かび、自分の巾着を取り出した。もしかしたら巾着自体に興味があっただけで、兄ではないのかもしれない。金より巾着に興味があっただけで兄と決めつけるには不十分だ。それを除けば今まで訪れてきた街と何ら変わった情報もない。

「次の街に行くべきか…?」
「あら、何かお困りかい?」

顔をあげると漆黒の長い髪の女がいた。昨夜の女かと思ったが、色香で誘う様をみる限り別人だ。だがどうやらこの街の女は一人で出歩くのが好きらしい。
サスケはダメ元で写真を差し出した。

「こいつに見覚えはあるか?」

女はその写真を受け取り、人の気配が去ってからそっとサスケに耳打ちをした。

「場所を知ってる。案内するからついてきな」

案外奇跡も起こるものだ、とサスケは内心ニヤリと笑った。
微笑む女は妖艶な優しい甘美な誘惑のようだった。




「そろそろ移動するのもいいかもな」

口を開くマダラの横でせき込みながらイタチはその言葉を聞いた。ゆっくりと寝床から出て台に置かれた水に手を伸ばす。

「ここを出てどうする気だ?まさか本気で妖の話を信じているわけじゃないだろ」

カラカラと笑うオビトを睨みつけるマダラの視線は冷たいものだが新たな目的を成そうとする炎がみえる。オビトが傍の猪口を手にするのを見てイタチは静かに酒瓶を持つ。

「遥か昔、ある陰陽師は狐から生まれたと聞く。恐らくはただ眠っているだけだ」
「そんな話信じるのはお前くらいな者だぞ」

なあ、とオビトは酒を注ぐイタチに話をふる。それに返答することなくイタチはマダラの傍について酒を注ぐ。

「あまり欲を出すとろくなことはないぞ。お前には妖よりも優れたものを持ってるだろ」
「馬鹿を言え」

酒瓶がポタポタと雫のみを垂らす。切らしたと分かった途端にマダラに組み敷かれる。 酒瓶が床にごとりと転がった。

「こいつはオレについてきただけだ。オレが欲しかったわけではない」
「そういう言い方はどうかと思うけどな」

オビトはマダラをすり抜けてイタチを起こす。話からするにとうの昔にオビトは数年前の事件を知っているらしい。

「それに…あいつはそろそろ……」

酒瓶を持って襖から出るイタチにその後の言葉は聞こえなかったが、言い方は小さく弱々しいものに聞こえた。



料亭に連れ込まれたサスケは舌打ちをした。先ほどの女の仲間が待ち構えた部屋に入れられ、巾着の中身をどう取るか狙っている。四方八方から囲まれ、一つの身動きもできないままサスケは周囲の女たちを警戒する。

「まさか白波だったとはな」
「やはり男ってのは女には弱いもんだねぇ。さあ、その金を寄越しな」

馬鹿で考えなしのナルトに比べてどうしてこうも自分は運がないのだろうか。抜刀しようにもここは料亭。騒ぎを起こすと面倒なことになる。
だが今回ばかりは仕方ない、と腹をくくり刀に手をかけたとき襖が開き、襖近くの女に酒がかかり、酒瓶が転がった。

「こっちだ」

その場の女たちがたじろぐ一瞬。サスケはその一瞬を逃すことなくその声の主の手を取って襖を出た。
怯んでいた女たちも後を追いかけてくるが、出口に向かうにはあまりに部屋は遠く、角を何度も折り返して巻くのは無理だ。などと考えていると、いきなり部屋の一郭に引き込まれる。女たちはそのまま行ってしまった。

「ア、アンタは…」
「危ないところだったな、まさかあそこに子どもがいるなんて思わなかった」
「子どもって……!」

怒ろうとしたときに見せたその人の笑みは穏やかで優しい。嘘をつくには理由がなさすぎた。

「兄を…探してて。それで白波とは知らずにあの女に尋ねた」
「羨ましいな、兄弟がいるのか」

その言葉にサスケは違和感を覚えた。この人に兄弟がいなくても不思議ではないが、どこか遠い昔に置いてきてしまった感じを思わせる口ぶりが切なくなる。そしてその切なさはサスケの記憶の中にある懐かしい人を思わせた。





















たいっへん遅くなりすいません!!!
なんだか色々と立て込んでて窮地に追い込まれてます!
でもそろそろこの話も完結へと向かい始めてます!
あと少しなので今年もお付き合いくださいませ!
それと追記になりますが白波というのは女性の盗人のことです。
おそらく辞書では盗賊としか出てこないですが、隠語でいうらしいです。

2013/1/24

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