夜会

マダラが眠りについた頃、イタチはよろよろと立ち上がる。酷く抱かれたためか、下半身が疼くように痛い。それでも身を清めに外へ出た。
冬のような季節ならそれこそ凍えてしまうものだが、蛍もない若葉の時期。川の水が火照った身体に染み込み、洗われていく。

「こんな夜中に一人で何してる?」

振り向くと人が月を背に立っている。影になっていて顔や服装ははっきりとは見えない。
ふいにかけられた声と全く気がつかなかった人の気配にたじろぐも、今の自分には為すすべがない。投げかけられた問いに答えようとするも、ここにいる偽りの理由が思いつかない。
そうこうしているうちに、その者が近づいてくる。声からして男だろう。
畳んでいた着物を取り、近くに置いていた簪をちらりとみた後、しばしの沈黙があった。

「…女か?」

いや、と言おうとして少し思案する。
ここは女ということにしておいた方がいいだろう。まさか男が男に抱かれたなど知れれば素性を明かすことになりかねない。それにマダラのことを考えればこの者にも危険が及ぶかもしれない。
イタチはこくりと頷いた。
すると男はたじろぎ、近くの岩の後ろに隠れた。

「よ、夜中に一人でって…危険すぎるだろ!」

数年前から落ちている視力のせいで近くでもあまりわからないが、どうやら少年のようだ。
歳は声ではわからないが、年下だろう。
少年は岩に隠れたままでこちらからは見えない。しばらく様子を見たが、返事がないため心配になる。

「どうした?」
「どうしたって…アンタこそ…お、終わったのかよ…」

恥じらいを含んだ物言いにイタチは悟る。

「もしかして、見張っていてくれるのか?」
「だ!誰か来たらまずいだろ!!でもアンタもなるべくさっさと済ませろよ」

分かりにくい物言いと、心遣いに感謝してイタチはクスリと笑う。
さっさと清めて着物を着てから簪で簡単に髪をまとめ岩に背を預ける。少年とは岩を挟んで正反対の位置になる。

「お前こそ用事があったんじゃないのか?」
「別に大したことねえよ。連れのいびきが煩くて起きたから、散歩しにきただけだ」
「連れがいるのか?」
「まあな。道中に会って勝手についてきた」

なるほど、少年は旅をしているらしい。この街に似つかわしくない者だが、イタチには羨ましかった。気ままにできる時間ほど欲しいと思ったことはない。

「その……いつも、なのか?」

ぎこちない切り出し方に口元が笑う。おそらく女と寝たことはないのだろう。少年の歳の頃にはすでに知っている自分が浅ましく思える。

「そうだな、相手は違うときもあるが」
「今、相手はどうしてる?」
「寝ているさ。明け方には出かけるからな、この時間くらいしか睡眠は取れないんだ」
「……なんか自分勝手な奴だな」

イタチは少なからずその言葉に驚いた。

「アンタを抱く奴ってみんなそうなのかよ」
「そうって…それが当たり前だ。己の満足のために抱き、そして終われば寝る。そういうものだ」
「なんだよ、それってただの暇つぶしの道具と変わらねえだろ」
「人は…自分勝手な生き物だ」

それを知ったのはイタチが少年だった頃、祖国を出たときだ。それぞれが自分の利益だけを見つめて起きた惨劇からイタチに自由はなかった。
人々の勝手で束縛され続けた身は世界を汚れたものとして受け止めざるをえなかった。

「フフ、世の中にはお前みたいなやつもいるんだな。それがわかっただけでも嬉しいよ」
「いいのかよ、それで……」
「お前には可能性がいくらでもある。それを無駄にしないことだ」
「それって…」

少年の言葉はそこで途切れた。いや、イタチが黙らせた。異様な風が凪いでいるのが気配でわかる。どうやら長話がすぎたらしい。

「すぐにここから離れろ」

小声で話す声色に少年も尋常ではない状況を感じたのだろう。そっと身体を動かす草の音が聞こえる。

「アンタはどうするんだ」
「安心しろ。おそらくさっき話した相手だ。だが他の者と許可なく話すことを嫌うからな…下手をすればお前が殺される」

この少年をあの男のようにむざむざと殺されるのは胸が痛い。

「早く行け。ここで話したことや見たことは誰にも話すな」

少し躊躇いがあったが、鋭い口調で言えば少年は素早く叢へと身を隠した。
茫然と見つめているとふいに頭を掴まれ地面に押し倒される。冷たい土が温もりを奪う。
少年といた居心地の良さは消え、自分の立場の現実を突きつけられる。所詮ないものねだりにすぎない。





















日付のとおり、かなり前に仕上げていました。テヘヘ
今回おそらくサイト中会話最多です。
この話ではサスケはかなり初心な奴です。サクラと二人きりとかなっただけでもドギマギします。
岩が無かったら草陰か木の上にでも移動したに違いない。

2012/12/9

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