冬、うらら

一応里抜け間もない頃設定のマダイタです。
どちらかというとマダラ←イタチの片思いな感じです。それでもマダイタと主張。


寒風が吹き、素のままの木が顔を見せる季節。
数時間前に出かけたマダラがいない隙をみてイタチは外へ出る。
近頃かなり視界はぼやけ、マダラからもあまり出歩くのはよくないと言われている。が、部屋の中に篭もりきりも空気が悪い。
朝方の霧は大分と消えかけ、今は薄く靄が出ている程度におさまっている。そのことだけでも視界は助かっている。
一歩外へ踏み出すとひやりと冷たいものが首筋に触れる。驚きつつその箇所を手で触れてみるとすでに液体になっていた。

「雪か…」

降っているとは全然気がつかなかった。雨と違い、静かに降る雪は気にかけにくい。
数時間も前に出たマダラは知っているだろう。積もってはいないが、雪の中でできることなど限られてくる。
イタチはそのまま歩き出した。人目を避けて建てられた小屋は木々に囲まれており、人の気配があればすぐにわかるが、マダラの気配はない。
マダラはどうやら近くにはいないらしい。
しかし町に向かった可能性はないだろう。出かけてくる、という言葉一つだったが情報収集をする気はなさそうだ。それなら数時間もいなくなることはない。時空間で飛び、さっさと済ませて帰ってくるはずだ。
踏みすすめる間にも吹きぬけていく冷たい風はイタチの体温を奪っていく。せめて羽織でも着てくれば良かったと苦々しく思う。
部屋に篭りきりだったせいと思っていた体調不良は外気に触れるだけでは治らないと訴えている。白く荒い息を吐きながらまずいのかもしれない、と考える。
くらっと視界が一瞬歪み、足を踏み外す。しまったと思うには遅く、崖の下へと滑り落ちていた。

「……っ」

体を起こそうにも力が入らない。ここまで体が弱っているとは正直思っていなかった。
イタチは虚ろげな目で白の地を見つめる。
体にのしかかる雪が重たく、さらに感覚も麻痺してきたのか次第に暖かく感じてきた。
いっそこのまま眠ってしまおうか――そう考えた時だった。

「!?」

甲高い鳴き声が聞こえたかと思うと、バサリと羽を合わせる音が間近に迫る。
見ようにも体は動かせない。骨がどこか折れているのかもしれない。
髪をぐいぐいと引っ張る強い力に痛さを感じながらなんとか顔を起こすと羽毛が見える。鳥だ。それもかなりの大きさだ。
その後から地面を踏みしめる音が聞こえる。人が近づいてくる。
マダラの滅多に入ってこないという言葉に気を抜いていたため、万一のことを考えていなかった。イタチは見つかることを覚悟して目を閉じた。

「こんなところで何をしている」

呆れたような聞きなれた声に目を丸くする。覗きこむ顔は見知ったマダラ本人だ。

「まだ体調も視力もよくないだろ。大方足でも踏み外したんだろ」
「それは…」
「無茶はするなとあれほど言っただろ」

腕を近づければイタチの髪を引っ張っていた鳥が小さく鳴いてマダラの腕に軽々と乗った。
何の鳥か今までわからなかったが、離れたことによって全体がみえ、すぐに鷹だと気づいた。
マダラは鷹がいた位置に立ち、イタチを引っ張った。強い力で引かれ、イタチはすぐに体を起きあがる。
さっきは重かった雪がいとも簡単に体から離れたのだから、他の力が加わるとこうも違うのかと驚いた。
横たわっていた時よりもはっきりとマダラを視界にとめると、いつの間にか鷹は腕から肩へと移動していた。

「なにか異変でもあったのか?」
「特に何も…それよりあなたこそ出かけてくるって言ったっきり何してたんですか」
「なんだ、お前にしては珍しいな…心配して探しにきてくれたのか」

図星を突かれて体が強ばるが、上手い冗談を言ったとばかりにクックと笑うマダラ。
いつもそうだ。この人に温かな情は届かない。
イタチが黙っていると怒ったと受け取ったのか、悪かったと苦笑を浮かべながら謝る。

「鷹狩りをしていたんだ」
「鷹狩り…ですか」

昔はよくやっていた、と弟との体験談を嬉しそうに話すマダラを見て意外なものだと関心する。
きっと趣味に違いないと思うが、素性は知っていても人品はあまり知らなかった。
自分から話すことはあったものの、マダラが自分のことを自ら話すことは今までなかった。
興味がなかったといえば嘘になるが、探ることも気が引けたし何よりマダラが拒んでいるようにも思えて訊くことが躊躇われた。

「お前は、なにかないのか?」
「何って…何がですか」
「だから、弟との思い出だ」
「サスケとの…」

里を抜けた日も浅いためか思い出すだけで胸が痛くなる。
サスケの笑顔を思い出す度にあの頃に戻れない現実を突きつけられている気がする。
イタチはそれを振り払うかのように笑顔を作った。

「甘味処に行くって言ったら不満そうにしながらついて来てくれました」
「甘味処か…」

少し考えたあとに腕を上にかざすと鷹が勢いよく空に舞って見えなくなった。
目を瞬かせているイタチに、別に飼ってるわけじゃないからすぐに離すんだ、と簡単に説明する。

「さてと、なら行くか」
「行くって荷物小屋の中に置いてきちゃいましたけど」
「別に構わん。町の入口の甘味処に行くだけだ」

お前も来るだろ、と笑みを浮かべるマダラにはい、と満面の笑みで返す。
いつの間にか止んだ雪の中、二人は町へと向かい始めた。





















2012/12/9

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