01

神岸の行く末

「あ、ありがとうございます!」

若い娘は嬉しそうに堂を出ていく。軽い足取りで鳥居をくぐり石段を降りようとしたとき、こちらを静かに見つめる視線と合う。

「あ、サスケさんですね、こんにちは!」

「…ああ」

軽く返事をして目の前の女を見つめる。この山道の下った先の細い小道にある甘味処の看板娘であることは一目でわかった。行きつけの甘味処だと付き添いで何度か行ったことがある。
だが、こちらから行くことはあっても、向こうからこちらに来る理由は一つしかない。
通学鞄を肩に担いでだまま、早歩きでサスケは石段を上る。

「毒を以て毒を制すとはこのことね」

二人がそれ以上会話することはなかったが、女が去り際に呟いた言葉を頭から消すことはできなかった。



古びた木製の戸を開けて堂に入るとぐったりと壁にもたれているイタチの姿が目に入る。強い霊力の御祓いをした後はいつもこの状態だった。サスケは駆け寄って力のないその体を支えた。

「姉さん、大丈夫か!?」

言いながら辺りに気を巡らすが、霊の気配はない。イタチが完全に消したのだろう。汗をそっとぬぐってやると少し和らいだのかうっすらと目を開けた。

「サスケ…帰ってたのか…」

「今ちょうど帰ってきたところだ。それより…」

イタチを抱く手に力を込める。イタチは声を発するのも億劫なのかサスケを見上げるだけである。いつもなら妖艶に映るその目が、今はただ怒りを刺激するものでしかない。

「なんで…また引き受けたんだよ。約束しただろ、もう依頼は引き受けないって…」

イタチは目を見開きすぐに顔を伏せた。サスケは見逃すことなく一心に見つめてくる。その視線に今は耐えることができない。

「お前との約束を忘れていた訳じゃない…ただ…折角ここまで来てくれた人たちを無碍には出来ない、と…そう思っただけだ」

サスケはため息をついた。やはりいつも返ってくる答えは同じものだ。
代々うちは一族の女は男よりも霊力が強く、南賀ノ神社の巫女として栄えてきた。そして前代の巫女であった母の後をイタチが継いだのは自然な流れである。
それに加えて生まれつきイタチには先代に例をみない強い霊力があった。そのせいで学校には通えず、ずっと神社で巫女の修行ばかりさせられてきた。そのためイタチには友人がおらず、サスケが学校へ行っている間は霊や式神と会話している。
イタチはサスケに微笑んだ。僅かだが力が戻ってきたらしい。その証拠に先ほどよりも顔色がよくなっている。

「けどわかってんのか?姉さんのことを物の怪の類いなんじゃないかって言うやつもいるんだぜ。実際さっきの甘味処の女だって…」

物の怪の噂はサスケが学校へ行っている間に訪れた人が、イタチと霊との会話を聞いて流れた噂だろうが、町では人ではないから強力な力をもって払えるのだという。もちろん町に行かないイタチが知る由もないことだ。

「そんなこと、気にすることはないさ」

サスケの頭を撫でてから堂を出ようとくるりと背を向けた。頭を撫でる手は冷たく、人の体温がないように感じ、物悲しくなる。
サスケにとってはこんな神社よりもイタチの方が遥かに大切だった。一族というしがらみがあるからイタチはいつまでも自由にはなれない。巫女の力が強くても使わないままでいれば霊力は衰えをみせ、普通の人と変わらない女になるはずだ。
いつか町でイタチと暮らすのがサスケの夢であり、密かに心に決めていることだった。

「おい、サスケ」

背を向けたままで表情はいまだ見えないが、疲労の様子はなく、声にも棘があり、まるで別人のように見える。
所為別人であった。そしてサスケはこの人物を知っている。何度かこの霊はイタチに憑いてサスケと話を交わしている。

「なんだ、マダラ。オレは今姉さんと話してたんだ、邪魔するな」

この南賀ノ神社を建立したうちはの祖先である。最初は驚いてばかりだったが、慣れる程度に繰り返された今となっては突然でも別段不思議なことではない。ただ不思議なことは、イタチはマダラの霊の気配には感知できないようで、全くマダラの存在を知らない。無論、マダラ憑依されてる間も記憶はない。
サスケも始めは何度となくイタチに説明したが、いっこうに信じてもらえないのでイタチには話さないことにしている。そのマダラがこうして現れたのには何か意味があるはずだ、と理由を待つ。空気で悟ったマダラは率直に言葉を告いだ。

「お前は知らんだろうが…今晩神降ろしをすることになっている」

「なっ!?」

「もちろん、お前には告げずにするつもりだが…正直、イタチの体には限界がきている」

確かに、いつも憎たらしい言葉を吐く男の横顔に疲労が隠せずにいる。それほどに、と思うとイタチが無理していたことは明らかである。
それに神降ろしは御祓いより更に力を使う。
疲労を隠すためか、マダラはどこからか取り出した煙管に火をつけ吸った。息と同時に吐かれた煙に眉を細めた。

「姉さんの身体に支障がでるだろ」

喉を鳴らすようにくっくと笑う。まるで支障が出ることを楽しみにしているかのような笑いに嫌悪感を露わにする。限界と伝えながらもあえて追い込もうとするこの男のやり方には気にくわない。
マダラが用済みとばかりに立ち上がった。

「なんにせよ、お前にはどうしようもないことだ。神降ろしは決定事項だ。今更変えることなどできない」

ふっと視界に倒れるイタチの身体に近づき、マダラが出たことを確認しながら、サスケはぎゅっと拳を握りしめた。





















残念ながら長々と話が続きそうなので身を切る思いで区切ることにしました。
姉さん企画初の小説は巫女話です。
やりたかった!念願の思いです!
しかし長くなるなんて思ってないぞ…!

2012/11/28

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