花街

「すっげー!これが花街かあ!!」

ナルトが一声を発したのも無理はない。サクラから聞いた場所をたよりに向かったのは先の町よりも遥かに規模が大きい。それはサスケにとっても嬉しいことだった。これだけ広ければ流れ者も多いはずだ。情報が手には入りやすいだろう。

「まずは宿を取って情報収集だな…」
「何言ってんだよ!折角の花街だぜ?姉ちゃんの一人や二人買わねえと…」

どうだどうだと誘うナルトにサスケはため息をついて背を向けた。

「金はやっただろ。買いたきゃお前が買え」
「なんだよ!連れねえ奴だな。ちょっとは息抜きしねえと見えるもんも見えなくなるぜ」
「うるせえ。あそこの旅籠で宿取るから、連れこんできたりするなよ」

さっさと旅籠に消えていくサスケを見送り、ナルトは賑やかな町に目を向ける。
朝に町を出たものの、空は橙から暗い青に色を変えようとしている。代わりに町の明かりがあちこちから目立つようになる。

「あの町は夜店って少なかったからなあ…サクラちゃんたちに土産でも買ってってやろうかな」

そっと巾着を取り出す。受け取ったときは金に目がいって巾着など眼中になかったが、朱色の高級で華美な織物であるのが一目でわかる。巾着だけでも大金が手に入りそうだ。
絶対に落とすわけにはいかないと巾着を腰につけおそうとしたとき、人波に飲まれる。

「あっ!ヤベエ!!」

幸い人波から外れた場所に巾着は落ちている。だが、今いる位置からは手を伸ばすことができない。かなりの大金だ、サスケに落としたといえばどやされるだけでは済まない。
誰も気づかないままでいてくれ…と願いながらどうにかこうにか人波から抜けたときと巾着が拾われるのはほぼ同時だった。

「あ!それってばオレの…」

振り返ったその人から誘惑するような酔う香りがただよう。けれどもどこかこの夜の街に似つかわしくないように感じる。ナルトは息が詰まったように先の言葉を次ぐことができずにいた。

「これをどこで……」
「おいおい、何油売ってんだ。まさかこのままさようならってわけじゃないだろうな」

酷く怯えたような様子で問いかけるその人にふらふらとほろ酔いした男が後ろから声をかける。
身売りなのか、とわかっても何故か腑に落ちない。
巾着を男が近づいてくる前にナルトに渡す。すでに中にどのくらい入っているか見当がついたのだろう。どちらかというとその人は中身より巾着に興味があるように見えた。
さっさと行くぞと言わんばかりに腕を引く男について行こうとする姿を見てナルトはその理由がはっきりとわかった。

「お、おいテメェ!何のつもりだ!!」

背で怒声を聞きながらナルトは手を掴んで走り出していた。小路に逸れてはまた大通りを進みの繰り返し。人波を避けての移動に次第にナルトも吐く息が荒くなっていく。
しばらく走ったところでナルトが止まった。いつの間にか川の近くまで来てしまったらしい。川のほとりで休む。

「こ、ここまでくりゃ大丈夫だろ…」
「お前…どうしてこんなことを…?」
「どうしてって…そりゃ何か危なそうだったし」

ハハと笑って見せるもその人は変わらず無表情にこちらを鋭いまなざしで見つめるだけ。

「…あまり、人の事情には易々と首を突っ込まない方がいい。人助けしたという気分に酔いしれたいだけなら尚更だ」

自分の性分を見透かされているようでナルトはただ立ち尽くすことしかできなかった。
だが先ほど見た憂いを帯びる表情は嘘ではないはずだ。

「やっと見つけたぞ!ガキ!!」

さっきの男が荒い息をつきながら追いかけてきた。あんなにぐるぐると行ったのによく追いつけたと思うと関心せざるを得ない。
隣の人はやはり無表情だ。もしかしたらこうなることを予想していたのかもしれない。

「テメェ、オレがかけたもん払う覚悟はできてんだろうなぁ…」

怒りに満ちた形相に最早酔いは覚めたのだと悟る。そしてさっきの言葉通りだと痛感した。

「元々こいつに先につっかかったのはお前だろ。だから引き分けってことでいいだろ」

納得しないのか男は唾を吐き捨てた。

「ふざけんな。オレがどれだけこの時間に金かけたと思ってんだ。鬼ごっこするために金払ったわけじゃねえんだよ」
「金を返すことはできないが……時間ならお前にやる」

ほぅ、と何か意味ありげな笑みを浮かべ強く腕を掴んで引き寄せる。何事かを耳元で囁いたようだが、ここからでは聞き取れない。

「じゃあな、ガキ。二度と会わないことを祈るぜ」


そう言って去っていったが、ナルトは後ろをついていく人の漆黒の揺れる髪を見えなくなるまで見つめていた。





















ナルト視点でお送りしました!
次は夜の話です。ちょっと微エロ的な要素はあるかもしれないです。

2012/11/10
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