落日

とある音楽(題名そのままだけど)を題材にしました。
とある方への御礼です。
理論など気にせずに雰囲気でお楽しみください。



橙の空に鳥が飛ぶ。子どもたちが早足で駆けて家族の元へ戻っていく。どこか遠くの寺から鐘の音が夕闇へと響く。それらを背にサスケは歩く。
小道に分け入ると秋の虫たちの鳴き声がそこかしこから聞こえる。赤い彼岸花は、彼の岸へと導くように夕日に光っている。
夕闇が空を覆うように押し寄せてくる。天を仰ぐと月が輪郭を隠して浮かんでいた。
冷たい風を肌に感じながら、サスケはある場所の前で立ち止まった。

「やっと…来ることができた」

イタチの墓だった。トビとゼツが丁重に弔ったことはいつか聞いた話で、場所は何かと忙しなかったので聞けずにいた。
サスケはその隣に腰掛ける。辺りには彼岸花しかないため、沈む夕日がよく見える。
手に持つ一枚の写真は家族で撮った幼い頃のもの。

「そういや、イタチの幼い頃をオレは…」

知らない。それは兄よりも遅く生まれてきたのだから当然のことだが、イタチの幼い頃を聞いたことも想像もしたこともなかった。もっと両親から聞いておきたかった、と過去をふりかえることばかりだ。
過去といえばイタチの嘘を信じ、トビの話した真実を疑っていたときもあった。そして第七班として過ごす道を捨てて大蛇丸の力を信じ、闇の力を信じたことも。
結局、自分が信じて歩んできた結果がこれだと思うと自嘲せずにはいられない。

「結局オレが信じたものは当てにならないものばかりだったな…」

「そんなことないさ」

声に驚き、顔をあげれば夕日に照らされている彼岸花の中に黒い着物をきてこちらに微笑む人が一人。そしてその人はここに居るはずのない人。

「なん、で───」

ゆったりと結わえた黒髪が彼岸花と同時に風になびく。状況が飲み込めないままのサスケはただただ近づくその人から目を離せずにいた。
目の前にきたとき、写真を持つ手に触れたときはその体温に驚いた。懐かしくも温かい兄の手。

「何をそんなに悲しんでいる?」

困ったように笑う表情で尋ねる意味を理解したのは一拍おいた後だった。頬を流れる雫に気づき急いで拭う。
この時何故かサスケは、太陽が彼岸花に影を落とすと目の前の人はいなくなってしまう気がした。

「別に…悲しいことなんて何もねぇよ」

いつものように強がるも、語尾は弱々しくなる。
このまま泣きついて会いたかったと叫びたかった。だがするには成長しすぎた。もう子供のままではいられない。そう誓ったのだ。

「もう太陽が沈むな」

夕日を見て言った。喜びも悲しみもその声には混じってはいなかった。ただただ自然の摂理であるかのような言い草だ。
もっと弟との別れを悲しまないのか、と少しがっかりした。

「なんだ、そんながっかりして」

「んなの当たり前だろ!折角会えたってのに…」

「その通りだ。そういうものなんだ。オレの死も。この再会も」

「…どういう意味だよ」

サスケが問うも、答えようとはせずに沈む夕日を見つめているだけ。つられて見やると徐々に下へと動いているのがわかる。
今日一日がまた終わるんだな、とぼんやり考えていたときだった。

「お、おい!」

先ほどよりも薄くなっている。少しずつ消えつつある存在に何もできず心が焦るばかり。だが本人は気にもしていない様子で、サスケも次第に落ち着きを取り戻していった。

「別れるわけじゃないって…理解できたようだな」

ほら、と指を指す方向のには月がでている。まだ沈みきっていない明るい空の反対側はもう夜を迎えている。

「もう夜だな…」

呟いて振り返ったときには自分一人が佇んでいた。辺りには誰もおらず、沈む夕日が見えた。
彼岸花は闇の中で風に揺らいでいる。
不思議と、悲しくはなかった。
写真を持つ手の未だ消えない温かさを感じながらサスケは微笑んで家路についた。





















実をいうと迅雷伝発売して読んだあとにこれ書きました。
無理じゃないか!!話が関連すぎて私は書いていいものか苦心しました。
いやでも書くって決めたし!とこの話ができたわけです。
兄さんの死を自然の摂理のように受け止められたらきっとこんな感じだったのかな…。

2012/11/17
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