後朝 「お前ってば金持ちだったんだ……」 サスケが大量の小判を巾着から取り出すとナルトは感嘆した。哀れなほど金に縁のないナルトにとって金持ちと映るのか、本当にサスケが金持ちなのか。ともかく、ナルトは小判の数に圧倒されて唖然としていた。 「なんだ。手助けの代わりに金が欲しいって言ったのはお前だろ」 「いやでもなんつーか…お前がそんなに持ってるとは思わなくてさ…」 サスケはその中から数枚を巾着に入れてナルトに渡した。 数枚といっても一枚がかなり高額だ。遊んで暮らせるだけのものはある。 「ほら、何かあったときのために持っておけ」 「サンキュー!サスケェ!!」 いきなり飛びつくようにナルトが顔をサスケに近づける。突然の近距離に驚きながらもサスケは顔面を掴んで押し戻した。 「とにかく、手伝ってくれるんだろ」 「オウ!じゃあ早速行こうぜ」 「ってどこに……おい!」 目的地も分からぬままナルトに引っ張られ、宿を出て連れてこられたのは記憶に新しい甘味処。どうして二度も来なければならないのかと不満を表に出すも、連れてきた当の本人は素知らぬ顔で中に入る。 「サークラちゃん!会いに来たってばよ」 「ちょっと!客として来ない場合は裏口からって言ってるでしょ!」 ナルトが元気よく準備中の札がかかった入口の戸を開けた。同時に店の奥から昨日の団子を運んできた女が慌てて出てきた。名前はサクラというらしい。 「あ、サスケ君おはよう!!」 前々から知った風な様子で話しかける。馴れ馴れしい感じもするが、それよりもサクラに名を名乗った覚えはないのに知っている。ずっと一緒にいまナルトが教える筈もない。 サスケは一歩後ろへ下がった。 「実はさ、サスケが人捜ししててさ」 「おい、ナルト!何でここで言うんだ」 素性が分からないサクラに自分のことをペラペラと話されては困る。そういうつもりでナルトを咎めたが、ナルトは落ち着き払った様子で悪い悪いと頭を掻いた。 「実はここ、甘味処と情報屋やってんだ。で、オレはいっつも世話になってんだ。あ、ちなみにサクラちゃんはこう見えても 忍なんだぜ?すげーだろ」 甘味処に情報が集まりやすいという適当な考えはどうやら正解だったようだ。しかしサクラが 忍なのには少なからず驚きがあった。 昔から本物の忍を見たことがないが、俊敏で影のごとく相手を殺す暗殺を稼業としているものだと思っていた。印象的な目と髪は徒にならないのだろうか。 「それで、人捜しってサスケ君のお兄さんでしょ?」 「お、お前…どこでそれを…」 「どこって昨日宿で話してたじゃない。私、忍って聞いたでしょ?情報収集はお手のものよ」 宿の会話をどこからか聞いていたのか、と納得がいくと全く気づかなかったことに驚く。忍としてはサクラはかなり腕の立つ者なのかもしれない。 「ナルト…お前気付いてたか?」 「ん?いや、全然知らなかったってばよ」 「もうちょっと二人とも気配に敏感になりなさいよ。じゃないと私より上の忍とかに寝首かかれるわよ」 首、という単語にサスケが一瞬眉を顰める。サクラは気になったものの、聞き出すことはしなかった。 「でも何かないの?お兄さんの写真とか」 「あるぜ、人に聞き込みするときのために持っている」 懐から取り出したイタチの写真にナルトとサクラは感嘆の声をもらした。 「すっげー美人じゃん、姉ちゃんの間違いだろ?」 「んなわけねーだろ!何変なこと言い出すんだ」 「いやでもさ…お前の間違い?とかでさ」 「あのなあ……」 「花街……」 サクラが呟いた言葉が理解できずサスケはナルトに対する怒りも忘れて写真を見ているサクラを見る。ナルトはヒナタが茶とともに運んできた団子を食べている。 「おい、どういうことだ。花街って」 「いや…お姉さんに間違えられても仕方ない容姿でしょ?花街かなーって思ったの。長く身を潜めるにも適してるし」 あいつと居ながら花街とは考えづらいが、思考回路が掴めない奴のことだ。兄をこき使っていることは確かだろう。 「よし、とにかく花街に行ってみることにする。ナルト、支度できたらすぐにここを出るぞ」 「え!?は、早すぎだろ!いいのか?そんな簡単に決めちまって」 「サスケ君は他に情報収集の仕方知らないの!他に当てがないんだから気遣ってやりなさいよ」 「……お前もな」 痛いところを突かれたものの、久しぶりに心が軽い。こいつらといるのも悪くないとふっと笑みをこぼした。 日の光を遮った薄暗い部屋でイタチは目を覚ました。夢からまだ覚めない頭でぼんやりとあたりを見ていると、窓から界隈を見下ろす男が目に入る。イタチはすぐに起きて夢を頭から払う。 「何の用だ」 「いや、お前の寝込みでも襲ってろうかと思案していたところだ」 窓を見ていたマダラがにたりと笑う。睨むような目つきでイタチがマダラを見ると頬を掴まれた。 いくら抗ってもこの男には興にしか映らないのだろう。 「今日でオレが片を付ける。お前は普段通り客の相手をしておけ。ただし…」 すっと合わせ目に手を這わせると、イタチがびくりと反応を示す。次第にまさぐる手が淫猥なものへと変わり、つられてイタチの身体も支えきれず布団へ沈む。 「身体は誰にも委ねるな。お前の身体はオレのものだ」 言い終えてマダラが離れる。イタチは息をできる限り殺しながら乱れた着物を直す。ふと気配が一瞬で消え、マダラがいた場所をみる。どうやらもう去ったようだ。イタチは一息ついて、布団へ寝転んだ。 「…わかっている」 過去の記憶が夢に出てくるようになったのは最近のことだ。特に笑みを顔いっぱいに笑みを作る弟が鮮明に浮かぶ。会うはずもないのに、と失笑しながらまた会うために瞳を閉じた。 次→ タイトルの「後朝」ですが「きぬぎぬ」と読みます。 男女が一緒に寝た次の日という意味です。だから何って話ですけど 千夜は結構お気に入りです。 でも書いててマダラって…誰やねん…(失笑)って何度かなりました。 本誌に折れそうですが続けていきます。 2012/10/27 ←top |