霊長リスペクト 落ちた作文試験のテーマ「敬語」を用いて小説作ってみようと先日フォロワーさんと会話していましたところ、できました。 少々カカイタ要素入れ込みました。やりたい放題やってます。 「サスケ、話がある」 任務が終わり、家に帰るとイタチが微笑んでオレに言った。いつもの微笑とはどこか違う雰囲気を纏っていながらもやはりその笑みに胸は高鳴る。 だが、美しい笑みに見とれていられるのも束の間のことだった。 「今日一日、年上を敬え」 「───は?」 イタチがさっきとは違う鋭い視線でオレを見る。 明らかに怒っていると判るも、なぜそのようなことをしなければならないのか全く見当がつかない。敬語?オレが?誰に? 「意味が全く理解できないのですが、兄上」 「なんだ、できるじゃないか」 ぱちぱちと目を丸くして何度か瞬かせる。言い終わってからみせる穏やかな笑みは先の任務の疲れを何よりも癒やしてくれる。兄の笑顔を見るためなら敬語なんていくらでも使ってやる。 イタチが言うには、報告書を提出すると言って去ったはずのカカシが家に来て「サスケは目上の人への口の聞き方が悪い」と言ったらしい。確かに、イタチと過ごす時間を減らされた任務に苛立っていつも以上に「アンタ」と連発してしまったかもしれない。 「よし!今からカカシさんのところに行って敬語ができることを示してやろう」 自分がやるわけでもないのにかなり意気込んだイタチがオレに微笑みかけて外出の支度をはじめる。行くと決めたわけでもないが、ここで行かなかなければイタチを悲しませることになるだろう。 「行きましょうか、兄上」 イタチは笑みを浮かべたが、どこか魚の骨がつっかかるような奇妙な感覚がした。 「カカシさん、さっきのことで伺いました」 カカシの家にやってきたが、任務後にまた会うなんて思ってもみなかった。だが心は任務の時とは違い、とても穏やかだった。今なら敬語なんて容易いものだ。しかし、直接オレに言わずにイタチに告げ口するとは許せない。明日麒麟でもしておくか。 そんなことを考えているうちにカカシが扉を開けた。やけに早いなと思ったのはおそらく家の前だからだろう。集合、今度から家の前にしたら少しは早くなるんじゃないか。そうすればオレが家にいる時間も長くなるというのに。 「なんだイタチ、オレのところにわざわざ来てくれたーのね!で、何、さっきのこと?まあ、とにかく中に───ってサスケも一緒?」 語尾を言うまでの嬉々とした口調はいつかの愛読書の映画化の喜びを思いだした。あまりの喜びように一瞬たじろいだが、平然としているイタチを見るとおそらく暗部時代からこうだったのではないかと疑ってしまう。 「はい、サスケはちゃんと敬語使えるってところを見てもらおうと思って」 このためだけに来るイタチも律儀なものだなと本来の目的を思い返して心の中で嘲笑する。原因を作った目の前の張本人も予想外だったのか、呆然としている。 「ほら、サスケ。カカシさんに挨拶するんだ」 イタチがにこやかに言うも、いざカカシに言うとなると話は別だ。なんでこんなやつにと怒りが沸々と湧いてくる。 「兄上、さきほど任務で会ったから挨拶は必要ないと思います」 無論、カカシに敬語を使わないための口実だ。集合した時に挨拶してくるカカシに返した記憶は今も昔もない。だが敬語を使えるってところをみせればいいのだから目的は達成している筈だ。事実、カカシはあっけにとられた表情で見つめてくる。どうやらオレが敬語を使ったことがかなり珍しいらしい。昔は父に「おはようございます」って挨拶してたし、使えて当然だろ。その証拠にイタチだって平然としている。 「そうか、任務があったからそれもそうだな」 挨拶は済んでいると思い込んでいるイタチはすんなりと納得した。ここで何か言い返されては困ると思ってカカシを見たが唖然としたままだ。これは実に好都合だ。 「兄上、任務で疲れたので早く帰って休みたいのですが」 「そうだったな。すまなかったな、疲れているのに。ということでカカシさん、今日はこれで」 何しにきたのか分からない時間を過ごし、イタチが軽く頭を下げた。イタチと帰りながらふりむくと振り向くとカカシがまだ扉の前でつっ立ったままだった。 「出てきてから何も言わなかったですね、兄上」 「…そうだな。お前の敬語の扱いの上手さに驚いていたのかもな」 いつも見せてやればいいのに、とクスリと笑うイタチが愛らしい。散歩と思ったらなかなかいいものだったな、と夕日を見ながら思った。 2012/9/25 ←top |