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虚ろな目を開けばぼやけた視界。病室にいるのは理解できるが、なぜ自分がベッドに寝ているのかが不思議である。窓の横に置いてあるひび割れた花瓶を怪しく思うも、何も思い出せない。ずきずきとやけに酷い頭痛を抱えながら傍においてあった一輪の花を花瓶に挿そうとした。

「あんたって何でそんな馬鹿なことするのよ!これ以上酷くなったらどうする気!?」

「いやだってサスケのやつが…」

病室の外でナルトとサクラが会話する声が聞こえる。どうやら自分の話をしているようだが、全く筋が掴めない。大声で話す二人怒りたくなったがここは抑えることにした。

「もう…一刻も早くイタチさんのこと伝えなきゃいけないっていうのに……」

そうだ、イタチだ。森で一緒にいて連れて帰らなければならないと急いでいた筈だ。隣を見てもイタチはいない。サスケはベッドを飛び出して病室の外へ出た。

「ナルト!サクラ!イタチは?イタチはどこだ」

唖然とする二人を無視してサスケは通路を忙しなく見る。先に我にかえったのはナルトの方だった。口を開けて大声で歓喜する。

「サ、サクラちゃん!!なんか知らねえけど上手くいったってばよ!オレってばすげー!!!」

「サスケ君…思い出したの…?」

「何のことだ。それよりイタチはどこだ」

嬉しそうだったサクラの顔が次第に沈んでいく。まさか…と嫌な予感に血の気が引いていくのがわかる。

「…どこにいるか教えてくれ」





「この部屋よ」

まさか霊安室かと思ったが、通された部屋は普通の病室。いやに冷たい取っ手を横に引き、中に入ると、遠目からでも重体とわかるほどの器具が取りつけられた兄の姿が目に入る。

「イタチッ!!」

サスケは叫ばずにはいられなかった。駆け寄って手をとる。近くでみると酷く弱っている。サスケは散歩に出たことを酷く後悔した。

「イタチッ!イタチッ!オレだ、わかるか!?」

「…ルト……」

器具もあって聞き取りにくいイタチの声を耳を近づけて必死に聞く。はっと口元から顔を上げると微かに開いた目が誰も映していないとわかる。驚愕したサスケは無意識にイタチの手を握りしめていた。

「イタ…チ?まさか…もう聞こえてないのか…?」

「結局…最後まで…サスケのために…何も…できなかった…」

「何言ってんだよ!そんなこと…」

ここで言っても何一つ届かない。伝えたいこと、知りたいことが次々と湧いてくるというのに、目の前にいるのが自分の弟だと伝えることさえ叶わない。サスケは唇を噛み締めることしかできなかった。

「こんなこと…望んでなんかねぇよ…」

「花…を……届けたんだ、サスケに」

花───?サスケは病室にあった花を思い出した。
偶然にも持っていたのは、花瓶に挿す前に病室を飛び出したからだと今になって気づく。

「花ならここにある!兄さんがくれたんだろ!?」

「あの花…紫苑の花、らしくて…花言葉が……」

徐々に弱くなっていく声が不安になり、閉じていく目に顔が青ざめていく。何も聞こえなくてもいい、見えなくてもいい。せめてこの世からいなくならないでほしいと願うことしかできない。

「───兄さん?兄さん!!」

「サ…スケ……」

ひくりと手が微かに動く。見えていないのはわかっているが、感触なら伝わるはずだ。イタチに自分の存在を教えるように両手でイタチの手に触れる。

「愛してる」

しっかりと聞こえたその言葉は叶わぬ希望を与えさせるだけで。それでも最期の言葉を残してくれたことに感謝はする。

「何も出来なかったのはオレの方じゃねぇか…」

冷たくなっていく手を体温のある手で包み、縋るように顔を寄せる。
頬を伝う雫が紫苑の花弁を濡らした。





「これでいい?」

「ああ、悪いな。いの」

サスケはいのから二本だけ受け取った。淡い紫色の花は相変わらずあの時の記憶を思い起こさせる。

「花に興味がなかったサスケ君がこうして買いに来てくれるなんてねー!」

「フン、この花は別だ」

「でもほんとに聞かなくていいの?何があったか気になるでしょ?サスケ君覚えてないし」

「何度も言ってるだろ。別にいい」

受け取った花をそのまま持って出て行こうとするサスケをいのが呼び止める。

「何か包もうかー?」

「それもいらねえって言ってるだろ。しつこいぞ」

サスケが来るといつもするお馴染みのやり取りを楽しんでいる。サスケも言うことは冷たいが、どこか温かみのある口調で返してくる。
あれからサスケは変わったといのは思う。前にあった任務の後、サクラも嬉しそうに言っていた。

「イタチさんに感謝しなくちゃ」

紫苑の花を見つめながらいのは憫笑して呟いた。





「アンタがこの花をオレに渡したことで何となく想像はついてる」

墓の前に花を置く。偶然ではあったにせよ、この花を送ってきたのだから、記憶喪失にでもなっていたのだろう。

「オレに贈った花、そのまんまアンタに返すことになるなんてな」

大丈夫。二度と記憶を失うことなどない。
自分に言い聞かせるように呟いた言葉が風に乗った。

「サスケェー!カカシ先生きたってばよー!」

「ああ、今行く」

墓の横に置いてあるいつしかいのに書いてもらった紙に目を落とした。そこに書かれた紫苑の花言葉にふっと笑みをもらす。

「兄さん、オレもアンタを愛してる」

サスケがナルトたちのところへ駆けた後、一人の男がイタチの墓の前に立つ。肩には赤い瞳をした黒い鳥が乗っている。肩の鳥が一鳴きすると男は嫌そうに顔をしかめた。

「前に教えてやっただろ。それが書いてあるだけだ。一々読む必要はない」

気にくわないのか横から嘴で髪を咥えて引っ張ってくる。かなり力強く、あまりの痛さに男はため息をついた。

「分かった、分かった。読んでやるから大人しくしていろ」

男は紙を拾い上げて読み上げた。

『花言葉…追憶、思い出、遠い君を思う』

2012/9/14



















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