11 イタチは路地裏に入り、一息ついた。 額から滲み出る汗、乱れる呼吸、喉からこみ上げてくる吐き気。今までとは違う異変に気づきながらもまだ限界ではないと堪えて路地を出た。 路地から一変した明るさに一瞬目がくらみ、人とぶつかってしまった。 「…すみません、ってカカシさん!」 「あ、あれ?イタチだったのね」 いつも持ち歩く愛読書を拾いながらカカシがのんきに笑顔で挨拶する。 「どう?サスケについて何か分かった?」 病院では会わなかったが、サスケのことは耳に入っていて当然だろう。しかし、為すすべもなく立ちつくす今の現状をカカシに報告するのは辛い。 「手がかりなしってとこか?ま、話はゆっくり聞いてやるから」 カカシはイタチの表情から読み取って近くの茶屋へと誘った。 「なるほど、それは残念だったな」 イタチの一部始終を聞いてカカシが呟く。 一部始終といっても病のことや温泉での出来事は無論話していない。話したとしても少し触れる程度にしておいた。 「カカシさんは何か分かったことありますか?」 注文した団子を串から口へと運ぶ。そういえばろくに食べ物を食べていなかったと今になってふと気づいた。 「さっき病院に行ったがサスケは相変わらずだったよ」 「そうですか…」 俯くイタチの表情は重い。手がかりなしの振り出しに戻ったのだから仕方のないことだろう。 「サスケの記憶を消した犯人が分からないならその犯人がどうやって記憶を消したか調べてみれば?」 「しかし相手が分からなければどうしようもないですよ」 カカシにおごってもらった団子を嬉しそうに食べる姿はさっきの表情とは正反対だ。カカシは苦笑して立ち上がった。 「そういうのに詳しい奴を知ってるから、そいつに聞いてみるといい。じゃ、オレは行かなきゃいけないとこあるから」 そう言って小さな紙をイタチに渡し、お代を支払ってイタチに手を振って去っていった。 ぽかんとしていたイタチも、カカシが見えなくなってから懐から薬を一粒取り出してすぐさま流し込むと、紙に記されてある場所へと移動した。 辿りついてからイタチはなるほど、と納得した。 犯人がどのような術を使うにせよ、何らかでサスケの精神を刺激したのは間違いないだろう。 ならばこの一族はそれにおけるスペシャリストともいえるだろう。 「やまなか花店」と書かれた看板を見ながらイタチは頷いた。 「あれー?サスケ君のお兄さん!」 嬉しそうにいのが店内からパタパタと駆けてきた。イタチがにこりと微笑みかけると、嬉しそうに頬を少し赤らめた。 「今日はいのいちさんに少し話があってな」 「あ、パパなら今シカクさんの所だけど…もうすぐ帰ってくると思います」 花束を作るのだろう、花を選んでいくつか抜き取っていく。茎が長いものをはさみで切って体裁を整えていく。 花をじっくり見るのは久しぶりに感じる。遡れば幼い頃の記憶になるかもしれない。 ふと一輪の花が目に留まる。綺麗な淡い紫色をした花は上品な印象を持たせる。 少しの間、イタチはその花に目を奪われていた。 「その花、紫苑っていうんですよ」 いのが得意げに話す。やはり花屋の看板娘だけあって、花のことは詳しい。 「綺麗な花だな」 そう言って慈しむように花にそっと触れる顔つきは優しいものである。それが生来のイタチの優しさであろう。あまりイタチのことは知らないが、壊すことを好まないことは分かる。 花を愛でる者は心優しい人の証だ。 「もし良かったら一輪どうぞ」 「いいのか?大事な品物だろう?それなら…」 「ああ!いいんですよ!お金なんて!一輪くらいどうってことないし…アスマ先生になんて花束サービスして渡してたりするんですから!とにかく、これは看板娘からのサービスってことで!はいっ!」 長い茎を少し切り、くるくると花を包装してイタチの手に持たせた。やはり手際がいいと呆然としながら見ていたイタチもここまでされてしまっては貰わずにはいられない。 「ありがとう、大切にする」 イタチの微笑みにいのも笑って返す。いつも思うことだが、イタチの微笑みを見るとどこか複雑な気持ちになる。 「お、なんだなんだ?プロポーズか?」 「パ、パパ!?」 その気持ちをかき消されるようにいのいちが帰ってきた。先ほど花を渡したところを見ていたと気づき、いのは頬を赤らめた。 「もうっ!そんなんじゃないってば!!ただ花をサービスしただけよ!」 「どうも、いのいちさん」 「おぉ、久しいなイタチ。話はカカシさんから聞いてる。とりあえず中で話すか」 「あれから、サスケの見舞いは行ってないのか」 目を伏せたままイタチがこくりと頷いた。 行きたいのは山々だが、行ったところで何も伝わらないのでは意味がない。 「記憶を戻せないうちに会いに行っても何も変わりませんから」 「まあ、そうだけどな…少しは見に行ってやった方がいいぞ、思い出すきっかけになるかもしれないからな」 いのいちは朗笑するがイタチは目を伏せた。 手元には先ほど貰った紫苑の花がある。全てが片付いたら渡しに行ってもいいかもしれない。 ともかく今は本題に入らねばならない。 「それより…記憶の一部を消すことは可能なんですか?」 いのいちの表情も険しくなった。 少しの沈黙が流れた後、いのいちが口を開く。 「相手の記憶をあったことのように錯覚させることはできるが…一部を消すというのはオレの知る限りでは、ない。それに万一できたとしてもかなりの集中力と時間を要する筈だ。サスケがすんなりと相手の言いなりに従ったとは考えにくい話だ」 「では不可能ということですか?」 「理屈上はな。だが忍の中には理屈を覆すものも少なくない。例えば…大蛇丸とかな」 イタチはごくりと唾を飲み込んだ。大蛇丸は術の開発をしていた。そして、その可能性から考えるとその研究を引き継いで何者かが記憶を消し去る術を開発した…ということもあり得る。 「一度、奴のことを探ってみる価値はありそうだな。かつてそいつの弟子だった方がいる。その人から聞くといいだろう」 渡された紙に記されているのは、自分もよく知る団子屋の場所だった。 次→ 最終章開幕…! ようやく終盤に近づいている…!! この実感がたまんねえええ!(笑) 夏には終わりを迎えられるとふんでます。 花は好きです。ハイビスカス好き。 2012/6/18 最近の本誌でああああああな展開迎えているのであああああという感じですが、本誌に合わせる必要なんてない! 知るかよ、そんな展開(笑) しかしこれ、総受けっていうのか!?これ何!?なんなの!?wwww 2012/8/7 ←top |