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※女体化注意


過去を振り返ってもどうしようもない。
振り返って元に戻せているのならば、サスケの記憶喪失だけでなく昔からの里の長をめぐっての対立だってどうにか出来るわけだし、自分もサスケも幸せな生活を送れたのだから。
だがイタチへ振り返らずにはいられない。振り返ってもこんな事態になるとは予測不可能であることを知りながらも。

「……なんでこんなことになったんだ」

たかが勾玉。されど勾玉。サスケの記憶喪失のためだと言い聞かせて胸の膨らみをタオルで隠して湯船に顔をつけた。



イタチが曲玉を見つけたのは、とある温泉旅館の上だった。昔に会ったときと変わらぬ後ろ姿は見間違えることはない。

「お久しぶりですね、自来也様」

何かを見るために持っていた望遠鏡を置いて、イタチがしたように勾玉を陽光に照らしている。
見つかったことと、知っている者が持っていたという事実に安堵しながら、イタチはゆっくりと近づいていく。

「その勾玉、実はオレが探していたものなんです。あなたが見つけてくださって本当に良かった」

ここでやっと自来也が振り向いた。イタチは微笑んで返してくれるであろう勾玉を貰うため手を差し出した。
だが自来也が勾玉を持った手を差し出す気配はない。ただこちらをじっと睨むような目つきで見つめている。安堵しきっていたイタチも流石にこれには異変を覚えて訝しんだ。

「自来也…様?」

「コイツをただで渡すわけにはいかんのォ」

「では何をすれば返していただけるんですか…?」

それを聞いた自来也の口角が上がる。それに気づき、急いで状況把握をした時には遅かった。
望遠鏡、温泉、自来也の性格。
しまった、と思った時には自来也に肩を掴まれていた。

「ワシの取材の手伝いをしたら返してやる」

目の前にあるカギをちらつかされれば大人しく従うしか出来なかった。



「簡単なことだ。主がナルトのお色気の術のように女になり、女子の気を引きつけてくれたらいい」

ニヤニヤと笑いながら言う自来也に不服そうな表情を隠さずイタチは反論する。

「前のように幻術をかけて連れてくるというのは…」

「それはいかん!そんなもの嘘の幸福にしかならんだろ!もっと…こう…自然体で……!」

その嘘の幸福で喜んでいたのはどこのどいつだ、と言いたくなったが抑えながら頷いた。



チラリと上を見れば、望遠鏡でこちらを見ている自来也がいる。その姿を見つけてハァ、とため息を吐いた。気は乗らないものの、温泉の心地よさは本物で、ついつい和んでしまう。
先ほどまでいた他の女客たちも既に上がり、今露天風呂は貸切状態である。
女子の気を引きつけろ、と言われたものの、女がいなければ仕方がない。自来也には悪いが、この貸切状態の温泉を満喫してやろうと決めた矢先のことだった。

「ひっさしぶりねー!温泉なんて!!」

「そうね!せっかく温泉来たんだからしっかり体休めなくちゃ」

「だからってはしゃぎすぎないようにしなさいよ!」

「で、でもそんなに人いないね…」

「!!!?」

慌てて端にイタチは寄る。まさかサスケの同期の女子たちがくるとは思ってもみなかった。
今出ても湯船につかっていても会ってしまう。というか、既に掛け湯を済ましてこちらに向かってきている。

「はぁー!いいお湯ね!」

「やっぱり家のとは違うわねー!」

「そうね!あ、でもヒナタの家ならお風呂とか広そうよね」

「え!?そ、そんなことないですよ…」

まずい。かなり気まずい。しかし自分とバレなければ向こうにとってみれば赤の他人も同然だ。今のうちに上がってしまう方が賢明だろう。

「あの…」

サクラがおずおずと話しかけてきた。
バレたとかなり低い確率の事態を予想してしまい、イタチは振り向いたものの声を出せなかった。

「あ!やっぱり!!」

間近で顔を見られれば、幾ら変化をしているからといっても知り合いならば気付くだろう。最早自来也のためでも、勾玉のためでもない。自分の体裁をなんとしてでも守らねばならない。イタチはとっさに思考を巡らせた。

「やっぱり美人な人!」

は、とそれこそ素顔を出してしまいそうにもなるサクラの反応におののきつつも、にこやかに笑みを返す。

「どうもありがとう」

バレるのも時間の問題だ。油断はできない。さっさとここから出てしまおうと立ち上がって急いで風呂から出る。

「あのー!お名前はー?」

いのがとっさに尋ねてきた。出ることしか考えていなかったイタチは思考がまわらずうろたえた。
本名だけは秘密にしておかねば…秘密…秘密…

「ミツと言います」

振り返って笑顔でそう告げて出た。
出たあとはろくに拭かずに着物を着てすぐに出て自来也の元へ戻った。
瞬身の術がチャクラを練らずに発動できるとは自分でも新しい発見だった。
二度とやりたのはごめんだが。

「これで…いいですか…?」

「お前さん…本当に才能あるのォ」

ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら見つめてくる。その理由に気づいてすぐさま変化を解いて乱れた着物を整えた。
自来也は少し不満そうな表情にしながらも勾玉をイタチに差し出した。

「ほれ、お前さんの欲しがってたものだ」

「ありがとうござ───」

「お、やっと見つけた!!」

タン、と赤丸から降りたキバを見てイタチは唖然とした。これ以上何かやらかされては困る。イタチがひきつった笑みをみせるも、キバは少し困惑した表情を浮かべる。

「いや…それ、どこかで見たことあるって言っただろ?それさ…」

「キバ君見つけたってほんと!?」

先ほど会ったばかりのヒナタが浴衣姿で赤丸の後ろから降りた。
まさか、と嫌な予感がよぎる。頬を掻きながら気まずそうにキバが切り出す。

「同じようなものをヒナタが持ってたの思い出して聞いてみたら、どうやらヒナタの妹のものらしくてさ…」

「あ、あの、見つけてくださってありがとうございます!ハナビちゃん、昨日かくれんぼした時に落としちゃったみたいで…」

本当にありがとうございます、と嬉しそうに頬を染めながら頭を下げるヒナタにポカンと開けていた口を緩めて微笑むと、自来也から受け取った勾玉を渡した。

「見つかって良かったな。今度はなくさないように気をつけろ」

告げたあとに起こる胸の痛み。これが心のものでないのは分かっていた。
気づかれないように二人に背を向けた。

「昔から無理ばかりしてきたお前だが、病だけはどうにもならん。あまり無理をしていると───」

「長く日をおけば記憶の手がかりがなくなってしまいますよ」

「お前まさか……!」

「…失礼します」

少し掠れた声で自来也の話を打ち切ると、そっとその場から離れた。





















イタチ女体化企画前編です(笑)
ほんとは一話で終わらせたかったのに…!
次で女体化は終わりです。

2012/5/15

温泉事件は終了です。
なんか意外とあっけなかったな…。しかし温泉事件はあとから重要な役割果たします。あと自来也もね!
温泉事件終了と同時に第弍章も終了です。
ラストの第参章にこのまま完結に持ち込んでいくぞ!!(意気込みだけだったらすいません)

2012/6/5


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