12月

冬風が吹く。
冷たさが全身にあたり、体温をさらって過ぎていく。濁った灰色の空は、今の自分の体温の色を表しているようだ。

そんな空の下、サソリは橋の上にいた。
橋から見える道を忙しく行き交う人々を興味なさげにただ眺めている。
入れ違いになって流れていく人々の中、親子連れが子を真ん中に手を繋いで歩いていく。話の内容は聞こえないが、冗談交じりに笑いあっているのがここからも見えた。
その親子が見えなくなったとき、下駄の音をさせながらこちらに走ってくる人影が見えた。

「待たせたな」

白い息を吐きながら黒の着物を着たイタチがサソリに声をかけた。乱れた前髪をさっと手で整えた後、巻いていたマフラーをサソリの首にかけた。

「大分待たせたからな、寒かっただろ?」

「んなわけねぇだろ。オレは傀儡だから寒さなんか感じねぇよ」

それは人形が寒さを感じない理と同じであるというのに、イタチは聞こえなかったとばかりにサソリにマフラーを巻きつけた。
取ったマフラーの下から見えた白い肌に一瞬惹きつけられたが、すぐに目を逸らした。


「おいおい、何考えてんだ。それでなくてもお前病弱だってのに…また鬼鮫の奴に怒られるぜ」

「フフ…それはお前だって同じだろ。お前が風邪を引けばデイダラに怒られるぞ」

「あのなぁ、オレは…」

「お、見てみろ。氷柱が出来てるぞ」

近くの家の屋根を指差して楽しそうに言うイタチは全く聞く耳を持たない。

(勝手にしろ)

マフラーに半分だけ顔を埋めてみれば感覚がないのにも関わらず、温かい心地になる。チラリとイタチを見れば、ずっと氷柱の屋根を飽きもせずにじっと見ているばかり。そんなに氷柱が珍しいのかとイタチと同じように見ていればすぐに理由へと辿り着いた。

「あの店に入りたいだけだろ」

びくりとイタチの動きが固まる。ああやはりそうかと甘味好きに呆れる気持ちもありながら、分かりやすい奴と可笑しいと感じる。いつの間にか悪かった空模様も自分の心と連動しているかのように晴々としている。

「しょうがねぇな。甘味、付き合ってやるよ」

ニコリと笑うその微笑みは、雪解け水のように温かかった。




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