09

さやさやと風が木に語りかけている。まるで風が話題を運んできて、木々たちがその話に盛り上がっているようだ。

サスケの病室から出たのはつい先程。寝ているサスケを思い出しながらイタチは目を閉じる。立ち止まって空を仰げば、眩しいくらいの青空が広がっている。

イタチは森にいた。
サスケと訪れた森であるのに、先とは違ってどこか淋しさを感じる。
サスケがいないだけで世界はこうももの寂しく感じてしまうことに可笑しさが込み上げてくる。

イタチは指を噛んで手を地面についた。立ち込める煙の中からイタチ特有のカラスが現れる。漆黒の躯がふわりと浮き上がり、イタチの肩にとまる。

「頼んだぞ」

イタチの言葉に応えるようにカラスは一鳴きして飛び去った。
何か一つでもいい。些細なものでもいいから、手がかりになるものが見つかることを願う。

「昼前…か」

サクラの話によると森で倒れたサスケが起きたのは昼前のこと。サスケと自分が森にきたのも昼近い時間だったから、ほんの数時間の間に記憶をなくしたのだろう。

そっと岩に触れる。大きい岩の後ろから小さく顔を出して、真剣な眼差しで兄の手裏剣術を見ていたあの頃から長い年月が経った。いや、もっと遥か前からの記憶が、たったの数時間でなくなった。
虚しさ、悔しさ。他の何かが自分の中でうごめいている。空を仰ぎ一つ息をする。冷静にならなければならない。今は感傷に浸っている場合ではないのだから。
一鳴きしてカラスが降りてきた。腕に止まらせると、嘴にくわえていたものをイタチに差し出した。

「これは…」

小さな勾玉だった。水晶のように透明だが、一部分だけ赤くなっている。その赤が自分の血液であると判断するにはそう時間はかからなかった。
この森へサスケと来た時、気を失う前にイタチは一瞬小さな光るものを見た。それがこの勾玉だったのだ。すぐに川の水で洗い落とし、もう一度じっくり眺める。
あの時目にしたものならば、おそらくサスケも見ている筈だ。今のサスケに訊けないことは残念だが、何かの手がかりになり得ることは確かだ。イタチはすぐにその勾玉を懐にしまった。

「ひゃっほう!!」

楽しそうなかけ声と共に、ザッと木の枝から現れたのはキバと赤丸だった。キバも視覚よりも嗅覚でイタチに気がつき木から降りた。

「よォ、サスケの兄ちゃん。こんなところで何してんだ?」

赤丸を撫でながらキバが問いかける。赤丸も気持ち良さそうに目を細めている。本当に仲良しなんだな、と微笑ましく二人を見る。

「ここにはよく来るのか?」

「ああ、散歩にな。中心部から離れてるけどオレと赤丸には丁度良い距離だからな」

赤丸も同意の意味を込めてワンと吠えた。
そうであれば、とイタチは何か確信したように先程の勾玉をキバに差し出した。

「これについて何か知らないか?」

イタチの質問にすぐにキバは返答した。

「悪い、知らねぇな」

苦笑しながら頭を掻くキバを何も責めることは出来ない。散歩でよく来るとはいえ、時間帯が違いすぎる。イタチは軽くため息をついた。

「当然の結果だ。お前が謝る必要はない。寧ろここにいた方が不思議なくらいだからな」

イタチの表情は影を伸ばす夕日のように寂しげに見えた。寂しく物悲しいそれは、キバの心を少し痛めると同時にイタチのサスケへの思いに強く感じるものがあった。

「…ったくサスケが羨ましいぜ」

呟いてからキバはイタチから渡された勾玉を太陽に透かした。水の雫のように光る勾玉は、脳の片隅の記憶を一瞬揺さぶった。
しかし嗅覚では分からない。匂いは完全に消えている。微かにするイタチの血の匂いのことは敢えて黙っておいた。

「どうしたんだ、いきなり」

突拍子なキバの行動に困惑したままのイタチは、首を傾げている。すっかり自分のペースで物事を進めていたキバは、また苦笑しながら頭を掻いた。

「あぁ、悪かったな。いやなんとなく前に似たような物を見たことがある気がしてよ」

「な、何!?本当か?どこで見たんだ!?」

軽く声にした言葉にイタチが飛びついた。ここまで反応されるとは思ってもみなかっただけにキバはいたたまれない気持ちになった。

「いや…そう言われてもよ…」

キバ自身もうろ覚えなだけに、下手に言葉を紡ぐことは出来ない。返す言葉もなく口ごもり、勾玉を宙に投げた。
その行為が失敗へと繋がる。勾玉の輝きが飛んでいた烏の視界に入ってしまい、そのまま咥えて飛び去ってしまった。

「あ!やっべ!!」

「言ってる場合じゃないだろ、どうにかしろ!」

「どうにかしろってアンタの烏だったりしねえのかよ!」

「それならこんなことにはならないだろ!」

慌てふためくイタチを新鮮に思いつつも、キバは印を結んで四脚の術を発動させる。脚力とスピードを兼ね備えたこの術ならば、烏など大したことはない。

「行くぜっ!!」

イタチも犬塚の速さは熟知している。烏から勾玉を取り返せないことなど疑う余地はない。
だから敢えて手を出すことはしなかった。

「…な、何故……」

「わ、悪かったよ」

申し訳なさそうに持っているのは、口を開けてボロボロの烏。
烏を捕らえられる位置に達したのだが、通牙を繰り出したためである。イタチもこれには驚きであった。

「いや、一番手っ取り早い方法だと思ってよ」

「だからってその衝撃で勾玉が飛んでいくことは考えなかったのか!?」

苦笑を浮かべるキバをこれ以上責めてもどうしようもない。とにかく一刻も早く唯一の手がかりである勾玉を探さなければならないと踏んだイタチは、口寄せで烏を呼び出してすぐに勾玉がとんでいった方角へと飛ばした。

「…悪かったな、頼んだりして」

これがイタチの最大の気遣いであったことは頭の悪いキバでも分かった。

「サスケの見舞いでも行くか」

瞬身で去ったイタチの後を見つめながらぽつりと呟くと、小さく赤丸がワン、と吠えた。





















お待たせしました、第弐話です。
第弐話は第弌話の感じとは少し違う予定です。あと、木ノ葉×イタチ兄さんでお送りしていくつもりです。
そんな感じですがお付き合いの方、よろしくお願いいたしますm(__)m

2012/1/16

童謡の某バナナ的オチ。(オチてないけど)
あの歌よく聞いてました。やたら長くてあまり好きじゃなかったけども。
キバってほんとに馬鹿だと思う。木ノ葉同期メンバーの中で一番馬鹿だと思う。
そんなキバが好きだ。

2012/3/25

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