11月 秋の象徴である葉が鮮やかに色づき始めた。見事な紅と元々の緑の対比もまた美しい。はらはらと風に吹かれては水面に落ちる彩りのよい葉をイタチは橋の上から眺めていた。 (儚い) そう思えてしまうのは、冬へと進む葉の色がそうみせるのか、寒さからくるものか。 「先輩ー?」 軽い口調と共にひょっこりと顔を出したのは新人のメンバー。橙の奇妙な仮面をしており、その素顔は見ることができない。 イタチは眉間に皺を寄せた。面が気にくわないのではない。素顔以上に知りたいのはこの男の思考だ。犯罪者の組織に場違いな調子者である。イタチにしてみれば煩わしい存在である。 そんな奴と運悪く二人きりになってしまった。 「先輩って紅葉見るの好きなんスか?」 こちらの顔を覗きこみながら尋ねてくる。一方的に表情を見られるのは、あまり良い気はしない。 「そういう気はない」 「それ明らか嘘ですよね」 さっきずっと眺めてたじゃないですか、と続けては一人で自分の洞察力はすごいとなんと褒めている。 「でも紅葉って綺麗ですよねー」 「お前でも風情が判るのか」 クスリと笑えばこちらを向いたまま沈黙のトビ。頼りの声がなければ調子が全く伺い知れない。ましてや喋り好きの性格のトビだ。黙ってしまえば不気味に感じてしまう。 「儚いっスね」 「お前もそう思うか」 ウザったい奴でも同じことを分かってくれたのは嬉しく思い、微笑を浮かべる。しかし、どこか会話に違和感がある気がしてならない。 「イタチ先輩が」 途端笑っていたイタチの瞳は、紅色へと変わる。 それにいち早く気付いたトビはすぐに後退りする。後退りといっても、逃げ足の速いトビであるから、最早小さい影となるくらい遥か向こうにいる。やはりコイツと話を合わせられる訳はないと思い直して、くるりとトビの居るであろう方角に背を向けた。 「冗談じゃないですかー。全く先輩は冗談が通じないんだから」 苛々する声の主は既に自分の後ろにいる。あの距離からすぐに戻るなどトビにとっては造作もないことだろう。 「だったらデイダラの元にでも行けばいいだろう。アイツなら構ってくれる筈だ」 「嫌ですよ。デイダラ先輩ったら爆発ばっかりだから、あんなとこにずっといたら死にますって」 「お前なら大丈夫だ」 ふと前を歩いていたイタチが足を止める。トビはぶつかりそうになったが、なんとか足を止めた。 「先輩?」 「見ろ」 イタチに言われて前方を見れば一面に広がる秋桜。可愛らしく咲くその花はあまり見る機会の少ないもの。 「コスモスだぁー!先輩コスモスですよ!なんだか久しぶりに見たなぁ」 「そうだな」 先程まで喜んでいたトビは、何かを探すように辺りをキョロキョロと見回している。 「どうした?」 「あ、あった!先輩これどうぞ」 差し出されたものは白のコスモス。確かに珍しい無彩色の色だ。受け取った雪のような白を見つめていると、トビがくすくす笑いだした。 「白のコスモスの花言葉は美麗って言うんですよ」 イタチは顔を赤らめたが、すぐにトビに背を向けた。 「…受け取っておいてやる」 |