10月

夏の暑さなどは遥か遠い記憶となり、寒さが日常に浸透してきた。
しかしそれを冬とは言い難い。青葉が鮮やかな色に変わり観賞を楽しませる。
紅く染まる紅葉はまるで寒さのせいで霜焼けした子供の頬ようだ。
観賞といえば、桜もそうである。花見といって酒や団子で宴のように騒いだり、夜の静寂の中に咲く魅惑さを楽しんだりと観賞は様々だ。
その桜の観賞も雨により散る。雨の雫が桜の花を伴って下に落ちる。
そして今日は桜ではなく紅葉の番であろう。
空から降る透明な粒を見ながらイタチは思った。

「雨は嫌いよ」

イタチの隣に立つ女性が小さく口を開く。だがその目はたった今自分の掌に落ちてきた雨粒を見ている。雨に強い思い入れがあるのか、語調は強いものだった。
イタチはそれを知っていた。
女性の思い入れはさておき、雨に対する彼女の思いには気がついていた。
彼女の故郷はよく雨が降る。

「雨は嫌な思い出を思いださせるのよ…」

あの時、と考えるのは里を出たときのこと。
翌日に降りだした雨の中、自分のした事を悔やみ、嘆き、それでも不変のまま時は過ぎていくだけだった。

「雨は顧みさせるくせに時は進めというのよ」

全くその通りだ。自分の考えていたことを彼女も考えていたに違いない。
降り止むこともない雨を呆然と見る。

この不安な気持ちはどこからくるものなのか。

イタチはその疑問を無意識に言葉にする。

「それはきっと秋よ。春や夏にそんなこと考えられないわ。冬の侘しさならあるのかもしれないけれど」

でも、と微笑んで言葉を続ける。それは先の雨の思いなど微塵も感じさせない楽しそうなものだった。

「あなたの不安はきっと歳時だけじゃないはずよ。そんなこと…もう判ってるでしょうに」

ぱちぱちとしきりに瞬きを繰り返す仕草はイタチが驚いたときの癖だ。子供のような表情のイタチに小南はクスリと笑う。
冷静で知的、何を考えているか判らない闇の忍といわれる彼でも、時折年甲斐な面もあるのだ。すっと指をイタチの濡れた髪を撫ぜる。

「ふふ、また鬼鮫に心配かけるわよ」

「…大丈夫ですよ」

止まない雨の中を二人はアジトへと歩みはじめた。




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