8月

「そっちは終わったか?」

イタチは相手が倒れたのを見て少し離れて横たわる者に声をかける。

「あぁ、今終わったぜ」

むくりと起き上がり、自分の心臓に刺さる長い漆黒の槍を抜いて飛段が答えた。

「あぁ〜愉しかった…!」

快感に浸りながら言う飛段。イタチはそれに少しだけ眉をひそめた。
二人は組織を探りに来た忍を始末する任務を命じられていた。
今この場所で立っているのは既に二人だけである。

「…鬼鮫より目立つな」

術のことである。鬼鮫とはイタチの人柱力を探索する時の相方である。今は角都と共に他の任務に行っている。
イタチは音も無く飛段の近くに移動する。飛段もそれに別段構う様子もなく、先の調子のままイタチに口を開く。

「あ?別にいいだろーが」

「………」

飛段の呪詛の儀式の跡に目をやる。飛段の血で書かれた信教の印自体には、別に忌々しさはないが、内容が惨たらしい。
何度も急所を外して痛みを与え続け、頃合いに心臓を刺す。
あちらで敵を相手にしていた際に騒がしく聞こえてきたのは、敵の叫び声と相方の高笑いだった。

「呆気なかったな」

「何だよ、そんなに素早く済んだのか?」

飛段が見ていた限り、イタチはしゃがんで蹲っていた。敵は倒れていたが。

「…死だ」

「死ぃ?」

スッと飛段に背を向けてしゃがみ込む。飛段の位置からは当然イタチの表情は窺えない。
優しい手つきで飛段のいう「裁き」を受けた者の頭に触れる。やはりこうも人は簡単に死んでしまうものだ。イタチの脳裏に浮かぶのは里を抜けたあの日のこと。
それを相方が知ることはない。
イタチは立ちあがった。

「さて、そろそろ―」

帰るぞ。一番言いたかった言葉は喉から出てこなかった。一体何があったのかと後を振り返ろうとした。

「そんなに人の死が悲しいのかよ」

知らず知らずに固まる手に強張る顔。どれも飛段は知らないが、動作が肯定を表していた。それでもイタチの声は平静を保ったままである。

「別にそういう感情はない」

「ならなんでそんな顔してんだよ」

飛段から表情は見えない筈。時々飛段の言葉は図星を突くことがある。そう言っていた角都の言葉を思い返す。

「抱え込みすぎなんだよ、バーカ。少しは預けてもいいじゃねぇか」

死と程遠い飛段には分からない。だがイタチが悲しんでいることは背を見ていても察しることができた。コイツはジャシン教とは程遠い奴だと知ったのはそんなに昔ではない。
黙ったままのイタチに居心地が悪くなり、ゆっくりと回していた手を下に下ろしていく。

「…もう少しだけ」

ピクリと飛段の手が止まる。イタチの言いたいことを察したためだ。

「…おう」

返事を短く返して先よりもイタチを強く抱きしめた。




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